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第7話

 部屋に帰ると、俺は荷物を机においてから、ソファーに身体を投げ出した。 メチャメチャ緊張したし疲れた――。 『大好きなんです。この名前の響きが』  シュンの声が耳の中に残っていた。  目を瞑って、さっき会ったシュンの事を考えていた。少しドキドキしたけれど、もう、大丈夫。シュンは家族と幸せに暮らしているようだ。子供の事を話すシュンの視線は優しく穏やかだった。家で子供とに居る時にも、愛情たっぷりの父親になってるんだろう。 俺も、こうやってシュンの為に仕事が出来るようになった。やっと望みが叶ったじゃないか。 ソファーに寝転がって色々考えているうちに、疲れがたまっていたようで、俺はいつの間にか眠りに落ちていた。  しばらくすると、家電がけたたましく鳴り出した。眠っていた俺は、慌ててソファーから立ち上がった。 「はい、渡辺です」  俺は咳ばらいをしてから受話器を上げ、仕事モードの声で電話に出た。 「よ、鷹人。どうだった打ち合わせ?」  進藤だ。今頃電話してきやがって、どういうつもりなんだ――。 「普通に終わったけどさ、なぁ、お前知ってたんだろ?」  俺は声に怒りを込めて聞いてみた。進藤だから、伝わるかどうかわからないけれど…。 「ん? 当たり前だろ」  進藤は臆することなくそう答えた。 「なんで受けたんだよ? 受けたにしても、何で教えなかった?」 「何言ってるんだよ、お前やりたかったんだろう? あの人の為に描きたかったんだろ?」 「まぁ、そうなんだけど…」 「なら、感謝されてもいいと思うんだけどな。それに、お前にシュンの仕事だって教えてたら、グズグズ迷って先に進まないだろ」 「…」  図星だ。迷って迷って、きっとシュンに会うのは駄目だって思っただろう。 「仕事なんだから、ちゃんと割り切れよ」  俺が黙っていると、進藤がため息をついてからそう言った。 「もう大丈夫だって、何年たったと思ってるんだよ」 「わかったわかった。お前もちゃんと大人になったよな」 「なんだよ、その言い方」 「別に。んじゃ、頑張れよ。青春の苦い思い出の君の為に」  その言葉とともに、進藤からの電話は切れた。 「何だってんだよ…」  結局、進藤が何を言いたかったのかさっぱりわからなかった。  その日の夜、夢を見た。シュンと俺が抱き合っている夢だった。 『ねぇ、わかる? 鷹人に触れただけで、もうほら』 『シュン…早く、シュンの中に入りたい』 『まって、俺、女じゃないんだから、そんなに慌てないで』 『待てないよ、ずっとシュンを抱きたかった。ジョアンじゃなくてシュンを』 『ジョアンって誰?』 『むこうに居た時の彼女』 『ダメ、そんな話聞きたくない。愛してるのは俺だけだろ?』 『そう。ジョアンには言えなかった。愛してるって』 『言えるわけ無いよ。だって、鷹人の愛してるのは俺だから』  シュンを抱いた、彼のベッドで。奥さんやタカト君はどうしたんだろう? 抱きながらそんな事を考えていた。  あぁ、そうだ。やっぱり愛してるのはシュンだけだ。そう思いながら、俺は腕の中で美しく喘いでいるシュンを見つめていた。

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