7 / 62
第7話
部屋に帰ると、俺は荷物を机においてから、ソファーに身体を投げ出した。
メチャメチャ緊張したし疲れた――。
『大好きなんです。この名前の響きが』
シュンの声が耳の中に残っていた。
目を瞑って、さっき会ったシュンの事を考えていた。少しドキドキしたけれど、もう、大丈夫。シュンは家族と幸せに暮らしているようだ。子供の事を話すシュンの視線は優しく穏やかだった。家で子供とに居る時にも、愛情たっぷりの父親になってるんだろう。
俺も、こうやってシュンの為に仕事が出来るようになった。やっと望みが叶ったじゃないか。
ソファーに寝転がって色々考えているうちに、疲れがたまっていたようで、俺はいつの間にか眠りに落ちていた。
しばらくすると、家電がけたたましく鳴り出した。眠っていた俺は、慌ててソファーから立ち上がった。
「はい、渡辺です」
俺は咳ばらいをしてから受話器を上げ、仕事モードの声で電話に出た。
「よ、鷹人。どうだった打ち合わせ?」
進藤だ。今頃電話してきやがって、どういうつもりなんだ――。
「普通に終わったけどさ、なぁ、お前知ってたんだろ?」
俺は声に怒りを込めて聞いてみた。進藤だから、伝わるかどうかわからないけれど…。
「ん? 当たり前だろ」
進藤は臆することなくそう答えた。
「なんで受けたんだよ? 受けたにしても、何で教えなかった?」
「何言ってるんだよ、お前やりたかったんだろう? あの人の為に描きたかったんだろ?」
「まぁ、そうなんだけど…」
「なら、感謝されてもいいと思うんだけどな。それに、お前にシュンの仕事だって教えてたら、グズグズ迷って先に進まないだろ」
「…」
図星だ。迷って迷って、きっとシュンに会うのは駄目だって思っただろう。
「仕事なんだから、ちゃんと割り切れよ」
俺が黙っていると、進藤がため息をついてからそう言った。
「もう大丈夫だって、何年たったと思ってるんだよ」
「わかったわかった。お前もちゃんと大人になったよな」
「なんだよ、その言い方」
「別に。んじゃ、頑張れよ。青春の苦い思い出の君の為に」
その言葉とともに、進藤からの電話は切れた。
「何だってんだよ…」
結局、進藤が何を言いたかったのかさっぱりわからなかった。
その日の夜、夢を見た。シュンと俺が抱き合っている夢だった。
『ねぇ、わかる? 鷹人に触れただけで、もうほら』
『シュン…早く、シュンの中に入りたい』
『まって、俺、女じゃないんだから、そんなに慌てないで』
『待てないよ、ずっとシュンを抱きたかった。ジョアンじゃなくてシュンを』
『ジョアンって誰?』
『むこうに居た時の彼女』
『ダメ、そんな話聞きたくない。愛してるのは俺だけだろ?』
『そう。ジョアンには言えなかった。愛してるって』
『言えるわけ無いよ。だって、鷹人の愛してるのは俺だから』
シュンを抱いた、彼のベッドで。奥さんやタカト君はどうしたんだろう? 抱きながらそんな事を考えていた。
あぁ、そうだ。やっぱり愛してるのはシュンだけだ。そう思いながら、俺は腕の中で美しく喘いでいるシュンを見つめていた。
ともだちにシェアしよう!