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第8話

 1週間かけて、3種類の下絵を描いた。どれも気に入っているので、どれが選ばれても良いと思う。他の仕事も入っていたので、それにも手をつけて行かなくては。  進藤が俺を売り出そうとしてくれているのはわかっているし、ありがたいことだ。でも、俺にも限界があるということに気づいて欲しい。 「雑な仕事はしたくない」と、ちゃんとあいつに言わなくては――。いつも進藤の口車に乗せられて、数種類の仕事を並行してするようになってしまった。  それから、サーベルの仕事は今回限りにしたいと言おう。シュンに会って以来、彼を抱く夢ばかり見ている。単なる欲求不満ではないような気がしてしまい、自分でも凹んでいた。  もう5年も経っているからシュンに会って大丈夫だと思っていたけれど、どうやら違ったようだ。俺は夢の中で、シュンに「愛してる」と何度も言っていた。シュンもそれに答えてくれていた。だけど、最後は苦しくなって目が覚める。そして俺は1人ベッドの上で深いため息をつくのだ。  依頼があったうちの2件の絵が仕上がったので、事務所に持って行くと、ちょうど進藤が外出先から戻ってきた所だった。 「おう、鷹人。終わったのか? シュンのやつ」  椅子の上にカバンを置いてから、進藤が俺の方を見ていやらしい笑顔を浮かべた。 「あぁ。こっちのも終わった」  俺は進藤の視線を避けるようにしながら答えた。 「早いじゃないか。じゃあ、次は…」  そう言いながら進藤が椅子の上に置いたカバンを開けようとしたので、俺は慌てて話を止めにかかった。 「ちょっと待った」 「ん? 何だよ」  進藤が面倒くさそうに答えた。 「あのさ、話が二つあるんだよ」 「二つもあるのか?」  進藤はカバンを机の上に置き換え、椅子にドカッと座って俺を見た。 「そうやって、休み無く仕事させるの、やめてくれよ。俺、ちょっとは休みたい」  威圧してくる進藤に負けまいと俺は、進藤の机に手をついて身体を乗り出しながら言った。 「…なんだ、そうだったんだ? お前、描くの早いから、もっと描きたいんだと思ってたよ。ま、次のは急がないから、取り合えず頼むよ」 「お、おう。わかった」  結局仕事を頼まれたような感じがするが――。 「後は?」  『休みたい』という俺の話を聞いてくれたのか微妙なまま話が進んでしまった。 「あのさ…」  上手く言えるだろおうか? 進藤ならわかってくれると思うのだが…。 「何だよ」 「あのさ、他には入らないかもしれないけど、サーベル関係の仕事は今回だけにして欲しいんだよ」 「はぁ? どうしてだよ? お前にとっても絶好のチャンスなのに」 「俺、やっぱり仕事って割り切れそうも無い。プロじゃないって言われるかもしれないけど、辛いんだ、シュンの顔見るの。頼むよ進藤」  俺は恥を忍んで進藤に頭を下げた。 「そう言われてもなぁ。この間、高梨さんに、シュンの出す本のイラストを、お前にお願いしたいって頼まれたんだよ」 「シュンの本?」 「そう。前から自伝か、エッセイを出す話があったらしいんだけど、シュンがずっと断わり続けていたそうなんだ。でも、先月、再度その話が出てさ、その時シュンが、『本のイラストを渡辺タクトさんにお願い出来るなら受けます』って言ったんだと。最近、お前もイラストの方が順調だったから調度良いなって思ってさ」 「それでお前、引き受けたのか?」  複雑な気持ちのまま、進藤に聞いた。進藤もシュンも、俺にチャンスを与えようとしてくれているってのはわかっているし、ホントにありがたいことなんだけど――。 「あぁ」 「あぁ、って、ちょっと待ってくれよ!」

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