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第11話
「あの日、空港まで連れて行ったの、俺なんだ」
しばらく黙っていたリュウが言った。俺は言葉が見つからなかった。
「シュン、ずっと泣いてた」
「…そうですか」
「いや、さすがにビックリしたよな。シュンがあんなに人の大勢いる所で、男にキスしちゃうなんてさ、マスコミとかに対して慎重だったあいつには考えられない行動だったよ。おかげでマネージャーと俺でさぁ…あ、今のマネージャーじゃないんだ。あの人は知らない事。俺と前のマネージャーはあの件のもみ消しで大変だったよ」
大変だったよ――と言ってるわりに、リュウはやけに楽しそうだった。
だけど…俺は大変な事をしてしまっていたんだ。俺とシュンだけの問題では無かったんだ。
「すみませんでした。皆さんに色々ご迷惑掛けてしまって」
俺は頭を下げた。
「いや、渡辺さんは気にしないで下さい。あれはあれで良い宣伝に使えたから」
「本当に申し訳けありませんでした」
もう昔の笑い話ですよ。と言った後、リュウが、さっきの楽しそうな表情を急に真剣な表情に変えて俺を見た。
「で、所で、渡辺さん?」
「はい」
再び緊張感が高まった。
「今は、彼女とかいらっしゃるんですよね」
一瞬、その言い方に『居ないと困るんだけど』というニュアンスが含まれているような気がした。シュンと又、何かあっては困るって事なのだろう。
「えぇ。ニューヨークで彼女が」
俺は嘘をついた。ジョアンとはもう連絡もとっていない。でも、俺に付き合っている人が居るのがわかれば、俺とシュンの昔の関係を知ってる、シュンの仕事仲間も安心するんじゃないかと思った。だからそう答えた。
「そうなんですか」
リュウは、そう言った後、手に持っていた絵を俺に渡した。
「じゃあ、この絵は、しまっておいて下さい。シュンには絶対見せないで」
「わかりました」
俺は絵を受け取って、鞄にしまった。
「あのさ、渡辺さん、その絵をかいたのは何故?」
リュウに言われて俺は言葉を探した。何故? それは今でもシュンの事が好きだから。
「シュンさんは、俺の描く天使の絵のモデルなんです。俺、煮詰まってきた時とか、天使の絵描くの、癖になってて。で、それで、色んな表情を考えてて――」
必死に言い訳をした。動揺してるのを悟られてはいけないと、自分に言い聞かせながら。
「そっか。天使ね。ちょっと可哀想な天使だけど」
リュウが呟くように言った。どういう意味なのだろう。忙しすぎて、子供にも思うように会えないからなのだろうか?
「え? あの、シュンは――いえ、シュンさんは今幸せなんですよね?」
俺がこの間の見た限りでは、シュンはとても幸せそうに思えた。でも、まわりの人から見ても、シュンが幸せであって欲しかった。
リュウが、一瞬間を置いてから俺を見て、何か言おうとしたが、その時、ドアが開いて、伊東さんとシュンが部屋に入ってきた。
「遅くなって済みません」
「お待たせしました。会議、なかなか抜けられなくて」
シュンがいつもの柔らかい微笑を向けてくれた。
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