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第14話
1階についてエレベータを降り、自動ドアの前まで来た。
「わざわざ有り難う御座いました。それでは」
そう言った俺に、シュンが言った。
「ね、渡辺さん、時間ありますか?」
「え、あの」
ヤバい。帰れないのか――。
「ちょっと、何か飲んで行きませんか? さっきの打ち合わせ、お茶ばっかりだったから、コーヒーでも飲みたいな」
シュンがそう言って、入口の横にある店を指差した。昔の記憶がチラッと頭をよぎった。
「そうですね」
頭の中では、断わった方がいいとわかっているのに、シュンの顔を見てしまうと、どうしても断わる言葉が出てこなかった。
しばらくの間、本の打ち合わせで出たことなどを話していた。そのうち、挿絵についての話になると――。
「ニューヨークはどうだった?」
カップを手に取りながらシュンが、何でもないことのように聞いてきた。
「そうですね、色んな人が住んでました。思ってたよりも暮らし易かったです」
「そう言えば、渡辺さんは、英語しゃべれたんですね、知らなかったな。俺なんて全然。海外で仕事ある時は、通訳さんに任せっぱなしだし」
「俺も勉強はしたんですけど、会話が出来るって程じゃなかったです。だから最初はすごく大変でした。絵の学校行きながら、英会話をやり直しましたよ。でも、苦労したけれど、やって良かったと思います」
「頑張ったんだね。タカト、すごく大人になった感じがする」
シュンがそう言って眩しそうに俺を見た。
久しぶりに名前で呼ばれ、鼓動がいっそう早くなった。でも、動揺を見せてはいけないんだ。
「老けただけですよ」
俺はそう言って頭を振った。俺の様子を見て、シュンが口を尖らせるような顔をした。
「老けた――だなんて、年上の俺の事考えてよ。君はまだ20代でしょ?」
「すみません。でも、別にシュンさんが老けたなんて言ってないです。シュンさんは…その、あの、あの頃と変わらなくて――」
可愛いです――と言ってしまいそうだった。前の話はしないようにしようと思っていたのに、2人でむかい合って、シュンの柔らかい表情を見ていると、気が緩んでしまう。ほんのちょっとした仕草も話し方も変わらなくて、あの頃に戻ったような錯覚に陥ってしまう。
「進歩無いって言いたいの?」
シュン少しだけ拗ねたような言い方をした。
「そんな事言ってないって」
慌てた俺をみて、愉快そうに笑った。その笑顔、とても懐かしい。
「シュン、楽しそうじゃない。恋人?」
急にそんな風に声を掛けて来た人がいて、慌てて声のする方を見た。シュンが顔を上げて、相手を睨み、怒ったように言い返した。
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