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第15話
「サチ、何言ってんだよ。失礼だろ?」
シュンの頬が赤くなった。
「だって、シュンのそんな嬉しそうな顔見るの、久しぶりだから、そうかなーってね」
そう言って、そのサチと呼ばれた人物が俺の隣に座り込んだ。
「バカな事言うなよ、そんなのあり得ないじゃないか。渡辺さんは男だぞ?」
「見ればわかるよ」
「知っててからかってるのか?」
「からかう? まさか。シュンは気付いて無かったかも知れないけど、俺はね、女性より男の人の方が好きなんだよ。だから、あり得るだろ? そんなのだって」
「冗談言うなよサチ。ずっと彼女居たじゃないか」
「彼女? 違うよ。シュンは、あまり自分の事話さないし、俺達のことも本当は良くわかってないんだろ? リュウもナツも前から知ってる事なのに」
シュンが黙っていた。俺も何を言っていいのか困ってしまい、黙っているしかなかった。
「ねぇ、それよりも、紹介してくれる?」
サチと呼ばれていた男が、俺の腕に自分の腕を絡めてきた。シュンは眉を潜め、溜息をついてから話し始めた。
「次のCDジャケットやってくれてる、渡辺さん。俺の本のイラストもお願いしてる」
「どうも、初めまして。渡辺です」
「宜しくお願いします。俺はサーベルでギターやってるサチオです。でも、サチでいいですよ。みんなそう呼んでますから」
サチは落ち着いた雰囲気ですごく余裕のある感じの人。物腰も柔らかく、シュンよりも大人に見えた。
「所で、渡辺さんって、おいくつなんですか?」
「今年で26才になります」
「そうですか。俺はもう31になります。でも、シュンよりは若いですよ? 俺ね年下好きなんです。俺と付き合ってみませんか?」
その落ち着いた雰囲気からシュンより年上だと思っていたのに、サチはシュンより若かった。だけど、その事よりも、サチからの申し出に驚いてしまった。
「いや、その」
「渡辺さんは、男の人でも平気な人?」
一瞬、サチがシュンに視線を送ったように見えた。
「おい、サチ…何言ってるんだよ? 渡辺さんにはちゃんと彼女がいるんだから」
「シュンさん?」
俺が問い掛けるように名前を呼ぶと、シュンが言った。
「リュウが言ってたよ」
「何か妖しいですね? リュウまで渡辺さんのことリサーチしてるの?」
「そんな訳ないだろ? たまたま、そういう会話をしたってだけで」
「ふーん、そうか。でもね、渡辺さん、俺は彼女が居る位じゃ諦めないですよ。俺のほうが良いって思わせたいな。どうですか?」
「サチ! どうしてそんな勝手な事が言えるんだよ? 彼女の事とか、渡辺さんの気持ちとか考えてみろよ」
「もう…だからシュンは…。ま、いいや。でも、自分の気持ちに嘘をついて、嘘の幸せにしがみついて、その幸せが壊れちゃうよりは、良いと思わない? 正直に生きた方が。俺は自分には嘘つきたくない」
シュンに挑戦的な視線を送りながらサチが静かにそう言った。
「邪魔して悪かったね。俺、これからレコーディングの続きなんだ。それじゃ」
サチが腕をほどいてから俺の頬に手を添えた。
「又、会えると良いですね」
そう言ってサチが去って行った。
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