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第16話
「ごめんな。サチの奴、何考えてるんだろ」
シュンは困りきった顔をしていた。
「いえ、別に平気です。シュンさん、俺、人によってそれぞれ違うと思うんです。あの…」
「有り難う、タカト。そうだよね」
「俺、俺は今幸せです。シュンさんも幸せなんですよね?」
俺が聞くと、俯きかげんだったシュンが、顔を上げた。
「あぁ、俺も幸せだよ」
シュンが微笑んだ。その微笑は本当の微笑みだよね?
本当の幸せは、愛する人の傍にいて、その人の笑顔を見続けることなんじゃないかと思う。
だけど、それが出来ないなら、愛する人には幸せであって欲しい。
家に帰った後、俺は何も考えたくなくて、楽しみにしていた映画を観始めた。観たくてしょうがなかったはずの映画なのに、内容がちっとも頭に入らなかった。
とにかく疲れた。シュンと居ると、シュンに見つめられると、どうしようもない気持ちになる。こんなに近くに居るのに、触れられないなんて…と考えてしまう。
ボンヤリと映画を眺めていると、サチが言っていた言葉が頭に浮かんできた。
『自分の気持ちに嘘をついて、嘘の幸せにしがみついて、その幸せが壊れてしまうより、良いと思わない? 正直に生きた方が』
果たしてそれは、サチ自身の事だったのだろうか? それとも、一般的な例え? それとも、まさかシュンの? でも、シュンは幸せだって言っていた。
そばにいるのが辛くて、会うのが辛くて、逃げるように彼の前から姿を消した俺なのに、結局忘れられなかったのは、この俺の方だったんだ。
つくづくバカだ。こんな事なら、日本に帰ってくるんじゃなかった。そのまま、あの場所に残ってジョアンと暮らしていれば、こんな気持ちにならないで済んだのに。
俺は進藤を恨みたくなった。この仕事だって、元はと言えば、あいつが――。
そこまで考えて、深く溜息をついた。
進藤は俺の為を思って色々やってくれてるんだ。ここまで来てしまったら、今更何を言っても仕方がない。とにかく、この仕事をどうにか無事に終わらせなくては。今は、シュンの期待にそえるように頑張ろう。
内容が頭に入らない映画を観るのをやめて、やりかけの仕事に取り掛かかる事にした。
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