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第17話
数日後、久しぶりに進藤の事務所に顔を出した。依頼されてた仕事も大体終わった事だ。
シュンの本の件は、この間の打ち合わせた内容からすると、しばらくはお声が掛からないだろうから、自分から仕事の催促をしてみようと思った。
ちょっと前に、そんなに色々仕事させるな、と言ったはずなの、今の俺は、余計なことを考えられないくらい忙しくなりたいと思っていた。
事務所に着いたのが、ちょうど昼飯の時間になってしまったので、事務の女性は食事に行ってしまっているようだ。
進藤は自分の部屋で食事する事が多いから、とりあえず部屋のドアをノックしてみることにした。
「進藤、俺。入るぞ」
そう言ってドアノブを回そうとすると、中から珍しく慌てたような声で、進藤が返事をした。
「え? あぁ、ちょっと待てよ」
誰か来ているのかもしれないと、しばらく、椅子に座って待っていた。
「おう、お待たせ。ちょっと来客中だったからな」
進藤がドアを開けて顔をのぞかせた。
「悪い。前もって電話すれば良かったよな」
昔からの付き合いだと遠慮が無くなっていけない。
「まぁ、良いよ。入れよ」
「え、でも、打ち合わせでもしてたんじゃないのか?」
「別に。ちょっと野暮用でね」
まぁ、入れ。と進藤に促されて部屋に入ると、部屋のソファーに誰かの後ろ姿が見えた。
「どうも。渡辺さん」
振り向いたその人を見て、俺はメチャメチャ驚いた。何でこんな所であってしまうんだ?
「サチ…さん?」
俺は確かめるように聞いていた。
「やぁ、嬉しいな。名前覚えていてくれたんだ?」
サチが満面の笑みを浮かべたのを見て、俺は背中に冷や汗をかいてしまった。
「あ、まぁ…」
名前を言ってしまったことに俺は激しく後悔していた。この人に係ってはダメだと本能が囁いていた。
「ここ、座りなよ」
サチが自分の座っている横に手を置いて言った。
「いえ、後で出直しますから」
俺が断っているのに、サチはニコニコしたまま「良いから良いから」と自分の隣のをポンポンと叩いた。
「俺は急がないから、お先にどうぞ」
「…それじゃあ」
気が進まなかったけれど、取りあえずサチの隣に座った。すると、彼は嬉しそうに俺に笑いかけてきた。その笑顔は、シュンの子供っぽい笑顔とは違う、大人の微笑みだった。
「連絡も無く来るって事は、何か急用?」
進藤が少し迷惑そうにそう言った。だから、後でも良いと言ってるのにと思い、かなり居心地が悪かった。
「いや、悪い。急用でもないんだけどさ。そろそろ今やってる仕事終わりそうだから、何か他に依頼が来てるかなと思ってさ」
進藤の言いそうなことがわかっているから、言い出しにくかったけれど、どちらにしろ嫌味を言われるんだからと覚悟を決めて話した。
「ふーん。この間は、そんなに色々やらせるなって言ってたくせに」
予想通りの答えだ。自分だってそう思ったさ――。
「ま、いいじゃないか。やる気になってるんだから」
「良いけどさ。えーっと、昼休み終われば、事務の子帰ってくるから、ちゃんとわかるけど、時間あるか? 確か2~3来てたと思う」
「あるのがわかれば良いよ。お前、今忙しいんじゃないの? えっと、何か話してた所だったんだろ?」
そう言って俺はサチと進藤を交互に見た。
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