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第18話

「いえ。俺ね、進藤さんに頼んでた所なんですよ」  サチが含み笑いをしながら俺を見ていた。 「そうなんですか」  いつの間に知り合いになっていたんだろうと思いながら進藤に視線を送った。 「サチさんが、お前の事色々知りたいってさ」  進藤が俺から目を逸らしながら答えた。 「は?」 「俺、言ったでしょ? 渡辺さんの事、気に入ったって。だから、進藤さんに聞きに来たんだ」  サチがそう言いながら、俺の肩に手を回して来た。進藤に助けを求めようと思ったけれど進藤は見て見ぬフリをしている。 「いや、でも、俺は…」 「簡単には諦めないって言ったでしょ? 俺は欲しいものがあったら、じっくり時間をかけてでも手に入れるんだ」  肩に回しているサチの手が、俺の頬をフワッと撫ぜた。背中がゾクッとした。 「渡辺さん、彼女とは結婚するつもりでいるの?」 「え…まぁ」  言葉を濁すと、進藤が急に大きな声を出した。 「お前、彼女いたのか?」 「い、いるよ。彼女くらい」  本当は今は居ないんだけど…。彼女が居ようと居まいと、お前には関係ないだろ? と心の中で思っていた。 「ふーん、そうだったんだ。俺には秘密だったのか?」  進藤が不満そうな顔をしていた。 「そう言う訳じゃないけど」  俺と進藤が黙り込んでしまうと、サチが再び口を開いた。 「彼女のどういう所が好きなのさ?」 「…そうですね、優しくて強い所とか、一緒にいて疲れないとか――」 「ふーん、そうなんだ。ねぇ、俺、渡辺さんの彼女見てみたいな。どんな感じの娘が好きなんだろ。彼女に会わせてくれる?」  知り合って間もないのに、それはないだろう? と断ろうと思った。でも、それでは、『もっと良く知り合おう』とか言われて、ますます自分の首を絞めてしまいそうにも思えた。 「そうだよ。俺にも会わせろよな」  答えに困っていると、進藤まで一緒になって、そんな事を言い始めた。 進藤に抗議の視線を向けて、文句でも言おうかと口を開きかけたが、その時ちょうど電話がなったので、進藤は俺達の傍から離れて行った。 「今、彼女は日本に居ないので」  考え考え言葉にした。別れてしまったけど、ジョアンを恋人という事にして話せば、架空の人物の話をするよりはボロが出にくいだろう。 「そっか。今は君のそばに居ないんだね」  上手くかわせるだろうと思ったのに、サチがそう言って微笑んでいた。進藤は、俺達の方を見もせず、自分のデスクで、電話の応対をしていた。 「じゃあ、今度一緒に食事に行こう」  サチがそう言って俺の頬にフワッとキスをした。あまりにも素早くて、拒絶することもできなかった。 「ちょ、サチさん、やめて下さい」  俺はサチのそばから離れようとすると、サチがそれを阻んだ。 「でも、平気だったでしょ?」 「え?」 「キス、気持ち悪くないよね?」  サチがもう一度、今度は俺の唇に軽くキスをすると、サッと席を立った。俺は翻弄されるばかりで腰が抜けたようになっていた。 「進藤さん、有難う御座いました。今度、渡辺さん誘って食事に行くことにしました。進藤さんも是非ご一緒に」 「わかりました。いいですよ」  電話が終わっていた進藤が、ごく普通に誘いを承諾していた。 「それじゃ、失礼します」  呆然としている俺を残し、サチはサッサと帰ってしまった。

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