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第20話
「はい、俺だけど」
「よ、鷹人。お前、電話出ろよ」
出なければ良かったと思ったけれど、後の祭りだ。
「お前だったのか。邪魔すんなよ」
「何だよ、その言い方は。そんな事より、さっき、サチさんから連絡あったぞ」
「え?」
嫌な予感がする。サチからの連絡と言えば思い当たる用件は1つしかない。電話しながら動かしていたペンを止めた。
「明日の夜はどうか? って」
進藤の言葉が頭の中でぐるぐる回った。
「いや、明日はちょっと…って言うか、俺、断わりたい」
「なんだよ、まだそんなこと言ってるのか? 食事くらい、付き合ってやればいいじゃないか」
それがダメなんだって。あの勢いだと、俺はどんどん振り回される気がする。
「悪いけど、やっぱダメ。あの人と関わったら、シュンと会う機会もありそうだし。俺、仕事でシュンに会うのも辛いのに、これ以上は無理だって」
俺がそう言うと、しばらく間があって、それから大きなため息が聞こえた。
「まったく、ホント女々しいよな、お前って」
「何と言われてもダメだよ」
俺は絶対行かないと決めて言い張った。
「じゃあ、サチさんの連絡先教えるから、お前から断わってくれ」
「わかったよ」
また来た…と思った。俺が嫌がりそうな面倒な話を持って来ておいて、断るのは自分でやれっていうやつだ。
仕方がない、自分でちゃんと断らなくては――。
そう心に決め、進藤に教わった連絡先に電話をかけた。呼び出し音がしばらく続いた後、留守電のメッセージが聞こえてきた。
そうだ、これはチャンスなのかもしれない。実際に話をすると、サチに丸め込まれてしまいそうだから、留守電に断りを入れてしまおう。
「どうも、渡辺です。明日の話、進藤から聞きました。せっかくのお誘いですが、お断りしたいと思います。すみません」
サチが諦めてくれる事を祈りつつ、留守電には最低限の内容を入れておいた。
電話を切ると、少しスッキリした気持ちで、やりかけの絵に取り掛かった。
問題は幾つかあるけれど、最近は絵を描いていると楽しくてしょうがない。仕事が順調な事だけが、今の俺を支えてくれている。
その後しばらくは、何もかも忘れて絵を書くことに集中出来ていたのだが、再び鳴り出した電話の音で、俺は現実に引き戻されてしまった。
無視するのも面倒になり、仕方なくペンを置いて居間に行った。
「はい」
「渡辺さんですか?」
「そうですが」
聞いたことのある、その声…。
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