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第21話

「どうも、澤井です」  シュンが電話をかけてきた。胸がドキドキする…仕事に関する電話だと思いたい。 「あ、シュンさん。本の事ですか? 伊東さんからこの間、連絡もらいましたよ。ジャケットのイラスト持っていった後に打ち合わせって」 「違うんだ。あの――」  シュンの横で誰かの声がして、その人物が電話に出た。 「どうも、渡辺さん、わかります?」 「あ…」  どうしよう、サチだ――。 「さっきの電話って、明日だったら断わるってことですよね? いつだったら大丈夫?」  サチの声が弾んでいた。俺はシュンがこの話を聞いていると思うと、どんどん気持ちが沈んできた。 「あの、そうじゃなくて…」  断ろうと思うのに、俺の話を遮るようにサチが話始めてしまった。 「進藤さんが居るからダメなの? 2人の方がいいのかな? それとも、3人が嫌だったら、そうだ、シュンにも一緒に来てもらおうか?」  たたみかけるようにサチがそう言った。 「サチさん、聞いてください」  シュンの名前を聞かされた俺は、背中に嫌な汗をかきはじめた。 「何? 渡辺さん」  俺は咳ばらいを一つしてから話始めた。 「俺、彼女との事まじめに考えているんです。だから、悪いんですけど…」 「ちょっかい出すなって感じなのかな?」 「はい。済みません」 「嫌だなぁ、何も、無理やり俺のモノになれなんて言わないですよ。ただ、知り合いになりたいんだ。渡辺さんだって、俺のこと何も知らないでしょ? 俺たち、いい友達になれるような気がするんだけど」  なおもサチが食い下がってきた。彼女が居るくらいじゃ諦めないと初めて会った時に言われたような気がするけれど――。 「でも…」 「わかった。じゃあ、明後日、シュンも一緒にって事でどうです?」  おいおい、全然わかってないじゃないか。どうしてそんなに強引なんだ? 自分で言うのも悲しいけれど、そこまでする価値、俺には無いと思うのだけど。  受話器の向こうでは、サチがシュンを誘っている声がしていた。その向こうで、シュンの戸惑った声が聞こえていた。 「シュンは大丈夫みたいだよ。渡辺さんはどうかな」 「いえ、えっと、すぐにはわからないので、後でまた連絡します」  それでもダメだと断れば良かったのに、俺はそんな風に答えてしまった。迷ったのは、シュンに会いたい気持ちがあったからなのだろうか…。  それにしても、シュンも一緒だなんて、何を考えているんだろう? いや、サチはシュンと俺の事は知らないのだろう。それとも、知っていてわざとやっているのだろうか? 「わかったよ。じゃぁ、良い返事を待ってるよ」  電話を切って、仕事部屋に戻ったが、今まで順調にやっていた作業が、波を逃したかのように進まなくなってしまった。  どうやって断わろう?

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