22 / 62
第22話
俺は机に向かったまま、しばらく何も出来ないでいた。目の前にある、描きかけのイラストの少女が、シュンに見えて息苦しくなってしまった。
居間の方から電話の音が聞こえてきた。すっかりやる気を失っていた俺は、ノロノロと立ち上がり電話のそばに行った。
しばらく出るのを渋っていると、留守電のメッセージが始まり、ピーと発信音がなった後に、遠慮がちな声が聞こえてきた。
「渡辺さん? 俺、澤井です」
そういう声が聞こえて、俺は慌てて電話の受話器を取った。
「はい、俺です」
「居たんだね」
シュンの元気のない声が聞こえてきた。巻き込んでしまって申し訳なくなった。
「えっと、はい。ちょっと手が離せなかったので…」
「さっきはごめんな。どうしてもサチが連絡してくれって」
「いえ、シュンさんに迷惑かけてしまって、すみません」
「違うよな? サチが…あいつが渡辺さんを困らせてるんだろ?」
シュンがそう言った。どう答えるのが正解なのか、自分でもわからなかった。
「どう言ったら、良いんだろう…そうですね、正直困ってます」
「サチの奴…。それ程鷹人の事、好きなのかな」
胸が痛かった。シュンの口からそんなこと聞きたくない。俺は、俺は今でもあなたのことが好きなのに――言葉に出来るはずもなく、沈黙が続いてしまった。
「俺が、断わっておこうか? 鷹人、優しいから断われなくて、又、辛い思いするといけないから」
辛い思いさせたのは、俺なのに――。シュンが俺を心配してくれてる気持ちが伝わってきた。シュンに甘えてはいけない、俺の事なんだから。ここでシュンが俺とサチの間に入って何か言ったら、サチがシュンに対してどういう態度に出るのかが心配だった。
「大丈夫です。俺、自分で断わりますから」
「わかったよ。…サチの奴、本当はいい奴なんだよ。人を困らせるような事なんてしないと思ってたのに」
シュンがそう言った。でも俺の前に現れたサチは、俺を困らせて楽しんでいるようにしか見えなかった。
「そうなんですか…」
「でもね、あいつがちょっと羨ましいよ――」
そう言って、シュンが黙り込んでしまった。俺にはシュンが泣いているように思えた。
「シュンさん、大丈夫ですか?」
「あぁ、大丈夫だよ。ごめん」
何で俺には出来なかったのだろう? サチのように自分の気持ちに正直になることが。
いや、やっぱり出来ないよ。シュンには、家族が居るのだから。
「それじゃ、また、仕事で会おうね」
しばらく黙っていたシュンが、そう言った。俺は、どうしようもない位、胸が苦しかった。
「はい、わかりました。それじゃ」
シュンの態度に、動揺してたけど、俺はなるべく平静を装って答えた。
どうしてこうなるんだろう? シュンとは、関わりを持たないようにしようと思うのに。
ともだちにシェアしよう!