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第23話

 とにかく、サチに連絡して、断わっておこう。また誘われるかもしれないが、その度に断わるしかないのだろう。諦めてもらはないと、俺が困るんだ。  早くすませてしまおうと、すぐにサチの携帯に連絡した。今度は待っていたかのように直ぐにサチの声がした。 「や、渡辺さん。予定あいてました?」 「すみません。明後日は、人と会う事になってましたので」 「そうか、残念です」 「それじゃ、失礼します」 「ねぇ、渡辺さん? そんなに俺の事避けないで下さい。俺、悲しいな…。でも、俺の最初の印象が悪かったのかも知れないですね。変にシュンに食って掛かるような話し方してしまったし。ごめんね。あの時、ちょうど仕事の事でイライラしてて。あなたとシュンが、あまりにも楽しそうに話してたから、羨ましくて」  サチの素直な言葉に、一瞬心が揺れそうになってしまった。 シュンの言うように、本当は良い人なんだ。だったら、食事に行く位良いのではないか? 「いえ、すみません」 「これから忙しくなるから、近いうちに、とはいかないけど、また時間のある時に連絡します。進藤さんと一緒に酒でも飲みましょう」 「あの」 「あ、ごめんね。今から雑誌のインタビューなんだ。連絡してくれて有難う。やっぱり優しいですね渡辺さん」  俺は複雑な気持ちになりながら電話を切った。長期戦になるのかもしれないと思い、深くため息をついた。  それからしばらくは、仕事の傍ら描きたい絵を思う存分描いて、穏やかな日々を過ごした。  サチも忙しいと言っていたので、誘いはしばらくは無さそうだし。ただ問題は、本の打ち合わせが、明日あるという事だ。 シュンに会うのは、やっぱり嬉しい。シュンの持っている、独特の穏やかな雰囲気の中で過ごす時間は、心が躍るような不思議な、そして幸せな時間だ。シュンが自分のものではなくて、それは、どう考えても、変え様のない事実なのだけれど…。  最近は、あまりにも自分の気持ちが重く感じたので、俺は自分の気持ちを楽にする方法を考えてみた。しばらくの間だけ、この仕事が終わるまでの間だけ、自分の心を自由にしてあげようか?  言葉にも、態度にも決して出せはしないけれど、シュンを好きだと思っても良いよと。 そうしたら、少しは心が軽くなるんじゃないだろうか? その位は、良いだろう。誰にも迷惑掛けないように、自分の心の中でだけ、正直な気持ちになってみよう――。  シュン、俺は今でもあなたが大好きです。あなたの傍にいられる時間を与えてくれて有難う。この気持ちは、もう、伝えられないけど、いつもあなたの事を思っています。

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