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第24話
「お待たせしました」
伊東さんともう1人男性が部屋に入ってきた。岡本さんというサーベルメンバーのマネージャーの1人だった。
今日は最初から、6階にあるサーベルスタッフ専用の部屋に案内されていた。
「これが出来上がりです」
持ってきたイラストを渡すと、伊東さんが満足そうに頷いて、もう1人の男性にそれを見せていた。
「良い感じですね。色をちょっと変えただけでも、すごくイメージが変わりますね」
「そうですね。私も、こちらの方が良かったと思います」
「それじゃ、岡本君、一応皆に見せて。後は宜しくね」
「はい。了解です」
岡本さんが部屋を出て行くと、入れ替わるようにシュンが入って来た。
「こんにちは。今、岡本君に見せてもらいましたよ。良かった、渡辺さんに頼んで。俺、凄く満足してます」
シュンが奇麗に微笑んでいた。俺はその笑顔に無意識に見とれていた。
「有難う御座います。良かったです、気に入って頂けて」
今日はシュンと本の打ち合わせの日だ。シュンが内容を詰めてきているはずだった。まだ、イラストを描く段階では無いけれど、シュンが内容を見て欲しいと言ってきたのだ。
「実はね、まだちゃんと書いてないんだよ。メモみたいなのは時々書いてるんだけどさ…」
絵を見終わったあと、シュンがそう言って申し訳なさそうな顔をした。
「シュンさんは色々忙しいでしょうから大変ですよね」
「ん、まぁね」
シュンが柔らかく笑った。胸の奥にポッと火が灯ったような気持になった。
「さて、それじゃあ、一応さ、シュンの考えていることを渡辺さんに話してみたら」
そう言われて、俺はハッとした。スマホに入っているメモをひらこうとしているシュンの事を、俺はボンヤリ眺めていたようだ。話が途切れたのを気にしてか、伊東さんが口をひらいた。
「そうだね、そうしよう」
シュンがスマホをテーブルに置いてから、スケッチブックをとり出し、何かを言おうとした。その時、部屋のドアがノックされ、こちらの反応を待たずに慌しくドアが開いた。
「すみません、伊東さんちょっと」
ドアから事務所の誰か覗き込んで、伊東さんに声を掛けた。その人が手にしていた週刊誌の表紙には、サーベルのメンバーの写真が出ているのがちらっと見えた。
「申し訳無いです…急用みたいで」
伊東さんが立ち上がりながらそう言った。
「大丈夫だよ、渡辺さんと2人でも出来る事だから。まだ、俺のは、当分まとまらなそうだし」
シュンが俺を見ながらそう言った。
「じゃ、ちょっと行ってきます」
伊東さんが足早に部屋を出て行った。シュンと2人きりの部屋、いやでもシュンの事を意識してしまう。
「ごめんな。伊東さん、忙しいんだよ」
「シュンさんだってそうでしょ?」
「まぁ、そうだけどね」
目の前のシュンが俺の大好きな笑顔を浮かべている――そう思った途端、俺は照れくさくなって視線を逸らしてしまった。
あの頃と同じ瞳、笑顔、話し方。大好きなシュンが今こうして俺の前にいる。こうやって、俺の絵を認めてくれて、一緒に仕事が出来る。本当に夢のような事だ。
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