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第27話
それにしても、日本でジョアンに会うとは思わなかった。ましてや、シュンの目の前で…。
もしかしたら、運命が俺に、いつまでもシュンの事ばかり考えるな!と伝えてるのかもしれない。
俺は気持ちを切り替え、ジョアンを連れていく店を考えることにした。
彼女は確か寿司が好きだったはず。ニューヨークで食べたような寿司ではなく、本物の寿司を食べさせてやろう。
ソファーに座ってスマホを取り出し店を探し始めた。
シュンには、あまりスマホを使わないからと言ったけれど、他の人より使わないと言うくらいで、本当は道を調べたりニュースを読んだりと日常的に使っているのだ。
30分以上過ぎただろうか? ジョアンが彼女の事務所の人達と一緒に、エレベーターから降りてきた。
「タクト、お待たせ!」
ジョアンが駆け寄ってきた。その姿を眺めながら、美人だなと改めて思っていた。
「やぁ、ジョアン」
立ち上がって、駆け寄ってきたジョアンの身体を引き寄せ、頬に軽くキスをした。
「それじゃ、私は今日は彼と食事に行くから」
ジョアンが仕事仲間にそう言いながら手を振った。
「わかったよ。明日もあるんだから、あんまり羽目を外すなよ」
みんなにそう言われて、ジョアンが手を広げて呆れたような顔をした。
「もちろんわかってるわよ。じゃあね」
彼女がそう言うと、仲間達が笑いながらドアを開けて外に出て行った。
「じゃ、行きましょ。タクト」
「うん。行こうか」
ジョアンがグイッと腕を組んできた。こうしていると、あまりにも自然で、彼女と別れてしまった事が、嘘のように思えた。
「ねぇ、何処に連れて行ってくれるの?」
豊満な胸を押し付けながら甘えるようにジョアンが言った。
「寿司屋なんてどうかな? って思ってるんだけど」
俺がそう言うと、ジョアンがガッカリしたようにため息をついた。
「残念。もう昨日食べに行ったの」
「そうなのか、じゃあどうしようかな」
ちょっと待ってと立ち止まって、スマホを出し、店を探そうとすると――。
「あのね、私、行ってみたい所があるのよ」
「どこ? 言ってみてよ、連れて行ってあげる。店の名前とかわかる?」
「イザカヤ。向こうにもあったけど、日本のに行ってみたかったの」
ジョアンがそう言いながら俺の手を取り、ユラユラとゆすった。クールで出来る女というイメージのジョアンが、少女のように可愛らしく思える瞬間だった。
「ふーん、居酒屋? ジョアンが良いなら、いいけどさ」
それから俺はジョアンを連れて、駅の周りにある居酒屋を何軒か覗いてみた。
今どきのオシャレな感じの居酒屋に行こうと思っのだけど、「そういう感じの店じゃないの」とジョアンが言って、4軒目にしてやっとOKしてくれた店は、サラリーマンや大学生が賑やかに飲んでいる、ごく普通の居酒屋だった。
「ここでいいの?」
縄のれんのかかっている、少し古臭い感じの居酒屋を覗きながら俺は聞いてみた。
「えぇ。こういう店に来てみたかったの」
ジョアンが嬉しそうに微笑んだ。彼女の華々しい雰囲気は、若干似合わないような気もしたけれど、本人の希望なのだから仕方が無い。
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