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第30話

「お客さん? この辺ですよね」  その声で目を覚まし、窓の外を見てみると、俺のマンションのすぐ近くだった。 「あの角の手前で」  指定した場所で車が止まると、重い身体を起こし、運転手に金を払いタクシーを降りた。マンションの中に入って、ポストを覗いて見ると、すでに朝刊が配達されていた。  エレベーターに乗り、自分の部屋に何とかたどり着き、部屋の中に入った。  とにかく眠いので寝室に向かおうと居間を横切ると、電話のランプに目が行き、留守電が入っていることがわかった。 条件反射のように再生ボタンを押してしまってから、後にするべきだったと後悔した。 『こんな時間にごめん、澤井です。話しておきたい事があったんだけど、また、後で電話します』  シュンからの伝言だった。伝言の入った時刻は午前1時半過ぎ、俺がジョアンとベッドに居た時間だ。  朝早くから電話をかけるのは迷惑だろうし、今はシュンの声も聞きたくなかった。後で電話しよう。今はとにかく眠りたい。  ベッドに入るとあっという間に眠りについた。そして、電話のベルが俺を呼び起すまで、夢も見ずにぐっすり眠っていた。  居間で電話が鳴っている。シュンかも知れない。時計を見ると10時をまわっていた。 まだ眠り足りなかったけれど、留守電の内容が気になって、電話の所まで寝ぼけながら歩いていった。 「はい」  電話に出ると、安堵の声が聞こえた。 「ごめんね、寝てたかな。澤井です」 「いえ、起きてました」 「今電話してて平気?」  シュンが遠慮がちに聞いてきた。 「大丈夫ですよ」 「えっと、彼女は傍にいるのかな」 「いえ」  彼女のことを気にしているのは、何でだろう? 『泣きだしそうな顔してた』と言っていた、ジョアンの言葉を思い出して複雑な気持ちになった。 「それがね、サチが昨日発売された雑誌に載ってたんだけど…」 「はい…」 「サチが、その芸能雑誌のインタビューで、カミングアウトしちゃったんだよ」 「カミングアウト?」 「好きな男性がいるって」 「え…」 「いつの間にインタビュー受けたんだ? って感じなんだけど…。まぁ、それはいいや。で、サチが好きな相手の男性って、鷹人だと思うんだ。それで、鷹人と彼女に迷惑かからないと良いんだけどと思って。事務所の人は、サチの好きな相手については見当がつかないみたいだから、多分大丈夫だとは思うけど」 「…」 「どうもあいつ、ずっと前から鷹人の事好きだったらしい。俺達が会った、あの頃から」 「…サチに会った事あるのかな? 俺」 「時々、俺が一緒にあのカラオケBOXに連れて行ってた」 「そんな…」 「ずっと会いたかったんだって」  そんな話、シュンから聞きたくなかった。サチが俺に会いたかって? 俺の事好きだったて?

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