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第32話
「でも」
俺が口ごもると、すぐにシュンが続けた。
「ごめんな、サチのやつ…」
「シュンさんが謝る事ないですよ。大丈夫です、彼女は多分そんな話聞いても、気持ちが揺れたりしない人だから。俺から話しておきます」
俺はジョアンを思い浮かべながらそう答えた。ジョアンだったら、ライバル心に火がついて大変だったかも知れない――。
「そっか、良かった。それじゃ」
心配してくれているのが伝わって来て、嬉しいような悲しいような気持で一杯だった。
「シュンさん?」
「なに?」
「心配かけて済みません」
「気にしないで。鷹人は俺の大切な友達だから」
「ありがとう、シュン」
電話を切った後、俺は泣きそうだった。「大切な友達」って言葉の中に違う響きがあったような気がしたからだ。そう思ってしまうのは、自分がまだ彼の事を思っているからなのだろう。
例え、その違う響きが俺の思った通りだとしても、俺達は2人寄り添う事は出来ないんだ。
その後、俺は仕事をする気にもならず、もう一度ベッドに潜り込んだ。
シュンの声が耳の中に残っている。「鷹人は俺の大切な友達だから」
俺の大切な人だから…。
大好きなシュンの身体を、もう一度この腕の中におさめることが出来たなら――。
そう考えていると、もう1人の自分が溜息を付いた。
お前は、何度同じ事を繰り返すんだ?
その後、数時間眠ってから目を覚ました俺は、空腹を覚え弁当を買いにコンビニ行った。
弁当を探す前に雑誌の棚を眺めていると、シュンの話していた雑誌が並んでいた。それを手に取りページをめくるか迷ったけれど、読んだところで俺はどうする事も出来ないと思い、雑誌をあった場所にもどした。
サチの気持ちを知ったからって、今と変わらない。俺は彼と付き合うつもりは無いのだから。
それから数週間後、自分の周りには特に変わった事は起きていなかった。
仕事も順調だし、シュンが作詞の仕事が忙しくて、自伝本の件についてはしばらく保留の状態だったので、気持ち的にも落ち着いて過ごす事が出来ていた。
サチが雑誌に発言した件で、サーベル関係のネタがしばらく続いていたけれど、他の芸能人の不倫の話が出ると、サチの話はいつのまにか消えてしまったようだ。
そんなある日、仕事を仕上げて事務所に行くと、久しぶりに進藤が飲みに誘ってきた。
しばらく家で仕事、行くとしてもコンビニという引きこもりに近い生活を送っていたので、渡りに船の誘いだった。
進藤の雑用が終わるのを待って、事務所の女の子も2人つれて4人で居酒屋に行った。
飲み屋での進藤がやけに機嫌が良くて、「俺が奢るから」と言い出した。女の子の前で格好つけたいだけで、後から俺にも請求してくるんだろうと覚悟はしておいた。
女の子達が帰った後も、俺と進藤はしばらく仕事の話をしながら飲んでいた。
そして、仕事の話が一段落した頃、進藤が思い出したように話をふってきた。
「最近、彼女とは上手くいってるのか?」
「あぁ、上手く行ってるよ。忙しく海外回ってる」
「結婚とか考えてないのか?」
「まだいいかな。今仕事が楽しいし」
「そっか」
彼女がいるフリをして話をするのが面倒になり、すぐに進藤自身についての話題をふってみた。
「お前こそどうなんだよ、彼女とか居るのか?」
俺がそう聞くと、進藤が嬉しそうな顔をした。もしかしたら、ずっと聞いてほしかったのかもしれない――。
「恋人はいるさ」
「知らなかったなぁ。お前いつの間に恋人つくったんだよ」
「そうだなぁ、半年経ってないかな」
何だよ、知らないうちに…。
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