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第35話

 リーダーのリュウとサチは、大学時代の軽音楽部の先輩後輩に当たるそうだ。大学時代のリュウはかなり怖かったらしく、サチはなるべく近寄らないようにしていたらしい。  サチが大学を卒業する頃、既にインディーズでやっていたリュウが、サチをメンバーとして誘ったそうだ。 最初に組んだリュウのバンドメンバーは、真っすぐ過ぎるリュウと意見が合わないと言って、次々に止めてしまったそうだ。サチも最初は断わるつもりだったようだ。大学時代のリュウを知っているサチとしては、怖いイメージしかなかったリュウと同じバンドでやってく自信がなかったからだと言っていた。  それに、その頃のサチは医療機器メーカーに就職も決まっていて、スーツや靴や鞄など全て揃え終わっていたというのも断った理由の1つだそうだ。  だけど、その頃すでにリュウと一緒にやっていたナツに、2日間ずっと説得されつづけ、最後には泣きつかれてしまい、断わりきれなかったそうだ。  それにしても、そんなリュウとよく一緒にやってきたものだ――と思っていると、リュウにを怖い怖いと言っているけれど、サチはリュウのことをとても尊敬しているんだよ、と進藤が教えてくれた。 酔って眠くなっていた俺は、進藤がそんな話を知っていた事に何の疑問を持たずにいた。  そして、話がシュンの事になった。 「俺がサーベルに入ってから2年後位かな? ボーカルの奴が辞めちゃって、で、ナツが大学時代のバンド仲間のシュンを誘ったんだよ。シュンはその頃、普通に就職してて、公務員かなんかやってたんだ。でも、趣味でバンド活動はやってたみたい、ライブハウスに時々出てたんだって。そう言えば、あの時も、ナツの泣き落としだったと思うよ」  会った事が無かったけれど、もしかするとナツが裏のリーダーなんじゃない? と思い、それを口にすると、サチが笑い出した。 「そうだねぇ、最初はそうだったかもね。でも今ナツは、広報担当みたいな感じかな? まわりからの受けもいいし。リュウのちょっと偏った所も上手くフォローしてるしね」 「へぇ」 「バンドのメンバーって、それぞれの役割分担が段々決まってくるんだよね。シュンはまぁ、バンドの顔って感じだろ、それから、俺はそうだなぁ? 雑用かな」  サチがそう言って楽しそうに笑った。 「それにしても、公務員のシュンて想像できないな」 「あはは、あの頃、スーツ姿のシュンに会ったけど、フレームの太いめがねかけてて、ちょっと野暮ったい感じだった。めがね外した途端、うわぁ可愛いって思ったよ。あ、一応俺のが年下だけど。まぁ、職業柄目立たないようにしてたのかもね」  サチがそう言ってまた笑っていた。  その後、俺と進藤の仕事の話や、芸能界の裏話などをして、思いのほか楽しい時間を過ごした。 心配していた、サチからの特別な意味での誘いも無く、心底ホッとしていた。  店を出ると、もう少しどこかで飲もうという事になり、落ち着いて飲める店を探しながら歩いていた。  その時、反対側の歩道から男女数名の言い争うような声が聞こえてきた。

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