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第36話

「なんだよ! 奢るだけ奢らせておいて何言ってんだよ!」 「離して!」 「最初からそういうつもりだったんだろ? 純情ぶってんじぇねーよ」  その後、女性の悲鳴が夜中の街に響いた。気が付くと、進藤がガードレールを飛び越え、道の向こう側に走っていくのが見えた。サチも俺も、慌てて後を追いかけようとしたけれど、少し先の信号が変わって、車が動き出してしまい、渡る事が出来なかった。 「おい、何やってんだ?」  進藤の声が聞こえた。 「うるせー、引っ込んでろ!」  向こう側の歩道で、男が進藤に殴りかかっている。 「やめろ!」  サチがそう叫ぶと、車の間を縫って走っていった。 「サチさん、危ない!」  俺は出遅れて、道路のこちら側に残されてしまった。車が途切れるのを待っていると、サチの声が聞こえてきた。 「てめー!」  サチが進藤を殴った奴の胸倉を掴むのが見えた。 「お前は手を出すな!」  進藤の声がした。サチは芸能人だ、こんな事がマスコミに知れたらただじゃすまない。 俺は慌てて車の間を縫い強引に道路を渡った。クラクションの音が鳴り響いていたが構ってる暇はない。  道路を渡っている間、進藤がサチを庇っている姿が見えた。その時、もう1人の男が近くの店の前に並べられていた空き瓶を手に取ると、進藤に殴りかかった。進藤はその場にしゃがみ込んだ。額が切れて血が流れている。 「剛士!」  サチの叫び声がした。サチは進藤の前にまわり、進藤の額の血を抑え、相手を睨んでいる。 俺は、進藤の直ぐ横で怯えて動けなくなっている女性を近くの店に避難させた。 「俺の剛士に何しやがる!」  サチの叫び声が聞こえた。 「サチ! やめろ」  進藤の叫び声と同時に、俺はサチと相手の間に飛び込んだ。サチを止める事が出来た、そう思った瞬間、背中に激しい痛みを感じた。 「うっ…」 「邪魔すんな!」  振り向くと3人いた相手のうち、2人は既に逃げ出していたが、残りの1人がサチに飛び掛ろうとしていた。俺はそいつに体当たりをして、そのまま倒れこんだ。そいつは倒れ込んだ俺を見て、慌てて逃げ出だしたようだ。 「渡辺さん!」 「鷹人!」  サチと進藤が俺の傍に駆け寄ってきてた。背中が焼けるように熱い。 「良かった。サチさん」  遠くからサイレンの鳴り響く音が聞こえてきた。薄れていく意識の中で考えていた。 俺は死ぬんだろうか? シュンにはもう会えないのかな……もう一度会いたい。 もし本当に神様がいるのなら、俺の願いを聞いて欲しい。どうか、シュンに会わせて下さい。 そして、もう一度言葉にしたい。  シュン、今でもあなたを愛している――  今にも泣き出しそうな顔をしたシュンが、俺を抱き起こしてくれたような気がした。 「シュン、ごめんね。本当は今でも愛してる」

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