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第37話

 気が付くとそこは白い部屋で、カーテンが風に揺れていて、 日の光がカーテンの隙間から差し込んでいる。  ここは何処なんだろう? 俺は何をしていたんだっけ?  身体全体の感覚が麻痺しているような感じだ。 「鷹人、大丈夫か?」  聞きなれた声がする。いつもの少し威圧するような声ではなく、優しい声だ。 「よう進藤。ここ何処?」 「病院だよ」  病院? あぁ、そうか。思い出した。サチと進藤と3人で飲んで、楽しい気分だったのに、どこの酔っ払いかわからない奴らの喧嘩に巻き込まれたんだ。  意識が途切れる前に聞いたサイレンは、救急車のものだったのだろうか――。シュンの腕の中にいたような気がしたけど、あれは幻だったんだ。 「お前こそ、平気なのか?」  進藤の頭にも包帯が巻かれている。進藤は頭を殴られて、俺は背中を刃物のようなもので刺されたんだ。 「俺は平気。ちょっと切れただけさ」 「そっか」  俺、生きていたんだ。もう一度シュンに会えるんだ。そう思ったら涙がでそうだった。 「そうだ、サチさんは?」 「あの後、病院に付いて来るって言ったんだけど、マネージャーを呼んですぐ帰したんだ。あいつ今忙しいし」 「そっか。とにかく、サチさんが無事で良かったよ」 「あぁ」 「俺を刺した奴は?」 「逃げられたよ。鷹人、警察に届けるか」 「ん? いいよ。俺、生きてたし。色々聞かれるとサチさんの名前とか出さなきゃいけないだろ?」 「すまない。俺があの時、勝手に飛び出して行かなけりゃ良かったんだ。サチも居たのにあいつの事、考えられなくて」 「進藤って、正義感強かったんだな。知らなかったぜ」 「そうか?」 「うそ。知ってる。お前は良い奴だよ」 「お前にそう言われると、照れるな」 「何だよそれ。マジメに言ってやってるのに」 「ありがとよ、お前もいい奴だぜ」  進藤が小さい声で呟いた。  それから俺は、大事な事を思い出した。サチが進藤の前に飛び出して行った事、進藤がサチを必死に庇っていた事、サチが進藤を「俺の剛士」って言ったこと。 「なぁ、進藤」 「何だよ、鷹人」 「お前の恋人って、サチさんなんだな」  俺は進藤を睨みつけながら言った。 「悪かったよ、黙ってて」 「サチの好きな人がお前だとすると、雑誌に載ってたっていう話が理解できるよ」  独り言のように俺が呟くと、進藤はもう一度俺に謝った。 「病院の方には、俺からちゃんと話しておくよ。すまない、鷹人。それから、サチを守ってくれて有難う。お前に頭が上がらないかもな」  いつもは頭が上がらないのは俺のほうだって思うのに、初めて進藤に勝ったような気分だよ。 「まぁ、今度、俺の頼みごと聞いてくれるよな」 「あぁ、わかったよ」

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