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第38話

 2日後の夕方、進藤がサチと一緒に現われた。サチはいつもの大人っぽい雰囲気ではなく、ちょっと見ると学生みたいで、進藤の方がどう見てもオヤジだった。 「渡辺さん、俺、あなたのお陰で怪我もしもなかったし、面倒な事にもならないで済みました。本当に有難う」 「サチさんが無事で良かったですよ。何かあったら、進藤に何を言われたか、わかりゃしない」  俺は、少しふざけてそう言った。 「ごめんなさい、騙すような事して」 「酷いですよ、2人で。俺、マジメに悩んでいたんですからね」  そうは言ったけど、実は、サチが俺の事が好きなわけではないとわかって、肩の荷が下りたような気分だった。 「本当に、ごめんなさい」 「おい、サチを責めないでくれよ。サチはおまえの事考えて――」 「え?」 「いや」  サチと進藤が視線で、何かを伝え合ってるような感じだった。 「ねぇ、渡辺さん、今でもシュンの事、愛してるんでしょ?」  進藤が戸惑った表情を見せた後、突然サチがそう言った。俺は、すぐには言葉が出なかった。 「進藤?」 「俺が言った訳じゃないぜ」  進藤が慌てたように言った。  サチが進藤と俺に向って穏やかに微笑むと、話し始めた。 「リュウはシュンから聞いて知ってるらしいけど、俺が渡辺さんたちの事に気が付いていたってことは、知らないと思う。俺はね、ずっと前から気が付いてたよ。だって、シュンが渡辺さんの事見つめる目って、俺が剛士の事見つめてる時の目と同じだって思ったから」 「俺は気が付かなかったなぁ。シュンも、鷹人も、サチの目も」 「剛士は、興味無かったんだろ? 恋愛事に」 「まぁ、そうだったかも。俺は早く一人前になりたかったから」 「良かった。あの頃、告白しなくて」 「うーん。あの頃だったら、付き合ってないと思うなぁ」 「やっぱり?」 「俺、大学に好きな女の子いたし」 「ううぅ。聞きたくない! 剛士は意地悪だよな。恋愛に興味無かったって言ってたくせに」  サチが視線で俺に助けを求めて来たので、思わず頷いてしまった。 「そうなんだよ。今、優しかったかと思うと、次には谷底に突き落とされるって感じ?」  俺がそう言うと、サチがベッドを挟んで進藤の反対側に移動してきて「そうそう。酷いよ剛士」と言って、俺の手をとった。 「んぁー! サチ、お前はそうやって、すぐ他の男に触るなっての。だいたいなぁ、お前、鷹人にキスしてただろう! あそこまでやる事なかったんだよ!」  俺は進藤が色恋沙汰で怒るのを初めて見たので、驚いてしまった。そんな進藤にサチが嬉しそうな笑顔を向けていた。 「ねぇ、剛士、妬いてくれてた?」 「あのな、妬かない訳ないだろ? 惚れたとか運命だとか言って口説いてきたお前が、俺の目の前で鷹人になんかキスしてんだぞ! いくら芝居だからって」 「ちょっと、進藤、『鷹人なんか』っていうのは酷くない?」 「うるさいな! 黙ってろよ。大体、お前がウジウジいつまでも」  思うように行かない事をゴネている子供のような進藤の様子を、サチが嬉しそうな笑顔で見つめていた。 「剛士。俺、すっごく嬉しい」  そう言うと、サチは進藤の側に戻っていった。  しばらく、進藤とサチは、ここが俺の病室だということを忘れたかのようにイチャイチャしていた。俺は2人が見えない方に向きなおそうと、痛い身体を庇いながら寝返りをうった。  まったく、怪我人に気を遣わせるなよ…。

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