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第40話

「あのさ、これ、買ってきたんだ。鷹人は花よりこっちの方が良いかな? って思って」  シュンが小さくてしっかりした紙袋を手渡した。 「すみません、ありがとうございます。何だろう?」 「フルーツゼリーなんだよ」 「ありがとう。やっぱり花より団子ですよね。嬉しいです」  箱を見ると、有名な店の名前が書いてあった。店でシュンがゼリーを選んでいる姿を思い浮かべて、微笑ましくなった。 だけど、シュンは父親なんだから、奥さんや子供のお土産にって普通に買っているだろうな…と思うと、少し切なくなった。 「食べる? 俺、自分の分も買ってきてるんだ。俺も一緒に食べようかな?」  子供のような笑顔を向けているシュンを見ていたら、俺も嬉しくなった。 「はい、頂きます」  シュンがベッドにある食事用の簡易テーブルをセットした後、箱の中からガラスの容器に入った、フルーツがたっぷりのったゼリーを出してくれた。 「どうぞ」 「すごい美味しそう」  早速食べようと思い、俺はゼリー容器のフタを外そうとした。だけど、背中の傷が引き攣れるように痛くて、思うように力が入れられない。 今は簡単な動作も思うように出来なくて、自分でもじれったくなってしまう。 「あ、気が付かなくて、ごめん。俺が開けるよ」  ベッドの横の椅子で、自分のゼリーを開けようとしていたシュンが、俺の様子に気が付いてそう言った。その後、スプーンも取り出して、俺の手にそっと握らせてくれた。 「食べるのは大丈夫なのかな?」 「はい。でも、押えるのがちょっと」  俺がそう言うと、俺が食べ終わるまで、シュンがゼリーのグラスを押えていてくれた。夢のようなひと時だった。 「すごく美味しかったです。俺、幸せ」  「幸せ」には色んな意味を込めていたので、どうしても言葉にしたかった。 生きていたっていう幸せ、そして、シュンにもう一度会えた幸せ――。 「良かった。俺も食べよ」  俺の横で、シュンが子供のように無邪気な顔をしてゼリーを食べていた。 「ねぇ、鷹人? サチとは…あのさ」  食べ終わった容器を片付けながら、シュンが少し考えるような仕草をしながら話始めた。 「はい」 「サチと付き合うの?」  シュンが呟くように言った。 「えっと、サチさんは――」 「やっぱり、いいや。聞かなくても」  シュンが後ろを向いたままそう言った。 「あのね、サチさんは進藤と付き合ってたんだ」  後ろを向いてテーブルを片付けているシュンの動きがピタリと止まった。 「え、何それ?」  シュンが振り向いて、不思議そうな顔をした 「俺じゃ無かったんだよ。サチが好きだったのって」 「じゃあ、なんであんな事を?」 「何でだろう?」  俺だって、わからない。2人のあの芝居に何の意味があったのか。 「…」  しばらくシュンは俺の顔を見つめていた。その瞳が、以前のように俺を見つめて何かを訴えているようで、急に胸が苦しくなった。

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