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第41話

「鷹人…」  シュンの瞳がみるみる内に涙で一杯になっていた。 「良かった、鷹人」  シュンがベッドの横の椅子に座って、背中を丸めて泣いていた。 「良かった、鷹人が生きていて」  小さな声でそう言うと、シュンはそれからしばらく、声も出さないで泣いていた。 俺はどうして良いかわからなくて、シュンの背中をずっと撫ぜていた。 「俺、大丈夫だから、そんなに泣かないでください。心配掛けて、済みませんでした。あの、仕事に復帰するまで少し時間が掛かるかも知れないけど――」 「――いいんだよ、仕事の事なんか。俺、鷹人が刺されたって聞いて、すぐに病院に飛んで来たかった。鷹人が死んじゃったらどうしようって思った。もし、鷹人と2度と会えなくなったら…俺――」  ポタポタ流れる涙を拭こうともしないで、シュンが俺を見つめていた。 「俺…鷹人が…」  何かを言おうとしているのだけど、その言葉が言い出せないでいるのがわかった。きっとそれは、2人の間ではもう言ってはいけないってお互いに思っていることだから。 「鷹人が、鷹人が生きていて、それから、サチは進藤さんと付き合ってるって、それがわかって…良かった」  シュンの涙を拭いたかったけれど、体が思うように動かせなくて、俺はただ、シュンの背中を撫でるだけだった。 「泣かないで下さい。俺、ちゃんと生きてます。一緒に本作りましょうね、シュンさんと2人で仕事が出来るなんて、俺、ホントにすごく嬉しいですよ」  そう声をかけて、笑顔を作る。言いたい言葉は心で呟きながら――。  しばらくして、シュンが落ち着いたようだったので、背中を撫ぜていた手を、そっとシュンの頬にあててみた。 「俺は、あなたの笑顔が好きです。泣かないで」  それを聞いたシュンが、泣き出しそうなのを堪えて、一生懸命微笑んでくれた。 それから少しの間、自伝本の話をした。俺の言ってたみたいにどういうものを書きたいか、まとめている途中だって。  本の話の途中でドアがノックされた。泣き顔のままのシュンは、ドア側から見えないように体を移動した。 「どうぞ」  俺が返事をすると、すぐにドアが開いた。 「あ、三宅さん」  進藤の事務所の人で、この間の夜、いっしょに飲みに行った女性だ。 「吉岡さんも一緒なのよ」  三宅さんの後ろから、吉岡さんが覗き込んだ。 「進藤さんに見舞いに行って来いって言われてたんだけど、なかなか来れなくて、ごめんね」 「ありがとう、無理しなくても良いよ。とにかく入れよ」 「でも――」  三宅さんがそう言って、シュンの方に視線を送っていた。シュンはドアの方に背中を向けていたから、彼女達から、顔は見えていなかった。 「構いませんよ。お見舞いでしょ? 俺、もう少ししたら帰るから」  シュンがそう言って2人の方をちらりと向いた。笑顔を作っていたけど、目が赤いままだった。 「え、あれ? シュン?」  三宅さんがシュンの顔を見て驚いていた。

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