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第42話

「本当だ。シュンさんよね? うゎー嬉しい!」  俺は、今にも騒ぎ出しそうな2人を見て、焦ってしまった。 「三宅さんも吉岡さんも、あんまり大声出さないでね。ここ病院だし、シュンさんにも迷惑掛かるでしょ?」 「あ、ごめんなさい。私、ずっと前からファンだったから。あの、出来たら、サインしてもらってもいいですか?」 「いいけど、まずは渡辺さんに、お花渡すんでしょ?」  すっかり興奮している吉岡さんは、お見舞いに持ってきていた花を、シュンに差し出そうとしていた。 「あ、そうだ」 「もう、吉岡さんったら」  隣にいた三宅さんも苦笑いしていた。  その後、彼女達は、一しきり見舞いの言葉を並べた後に、仕事の話を始めた。 俺が最近取り掛かっていた仕事は、日程を遅らせられるもの以外は他のデザイナーに依頼しなおしたと言う事だ。進藤の奴は、肝心な事を俺に言い忘れたからって、三宅さん達に伝言を頼んだらしい。 「進藤さんたら、出先から戻ってきたと思ったら、私たちを追い出すみたいにお見舞いに来させたのよ。打合せの後、病院に寄ったんだけど、渡辺さんに伝え忘れたからって。ねっ?」 「そうそう。なんだか、色の濃いレンズのメガネ掛けた、おしゃれっぽい人と一緒だったんだけど、ちょっと様子が変だったのよね。進藤さんたら」 「ふーん。そうなんだ」  進藤は、サチと事務所に行ったんだ? きっとサチは、いつもと雰囲気が違ってたから、彼女達は気が付かなかったのだろう。  俺は、進藤が子供のようなヤキモチの妬き方をしていたのを思い出し、可笑しくなってしまった。訝しげな彼女達の視線をよけ、シュンの方を見た。  シュンは急に視線を向けた俺を不思議そうに見て、小首を傾げた。シュンのその姿があまりにも可愛くて、俺はしばらくそのまま見つめてしまった。 「ちょっと、渡辺さん、何見詰め合っちゃってるんですか? シュンさんが可愛いからって、もう!」  吉岡さんがシュンと俺の間に入って視界を遮った。 「そうそう、シュンさん。サインお願いします」 「あ、うん。何処にする?」 「じゃあ、えっと、これしかないかなぁ。ここにお願いします」 「あ、私も良いですか?」 「いいよ」  シュンが吉岡さんと三宅さんの手帳にサインをしている時、吉岡さんが急に何かを思い出したように話し始めた。 「ところで、渡辺さんとシュンさんって知り合いだったんですか?」 「え? まぁね」 「ほら、俺、シュンさんの本のイラスト頼まれてるじゃない」  事務所の子だから知ってるはずだ。 「あ、そうだった。そう言えば最初の頃、渡辺さんが渋ってるって進藤さんが困ってましたよ」 「そうだったの? 渡辺さん?」  女の子って、何で余計な事を言ってしまうんだろう? シュンの表情が曇ってしまった。 「いえ、その、すごく嬉しかったんですけど、色々と自信が無かったから」 「そうなんだ」  サインを書き終わった手帳を2人に渡しながら、シュンが悲しい表情をしているのがわかった。 「自信が無いなんてぇ、渡辺さんらしくないですよね。シュンさん、そんな悲しそうな顔しないで下さいね。渡辺さんがダメだったら、私がイラスト書きますよ?」 「え、悲しそうな顔してた?」  シュンが吉岡さんの冗談を完全にスルーして、慌てたように自分の顔を触っていた。 「シュンさんったら。本当に渡辺さんの絵が好きなんですね? さっき、目が赤かったの気になってたんですけど、泣いちゃう位、心配してたんですね? そっかー、やっぱり私がイラスト描くんじゃダメかなー。いいなぁ。それ位シュンさんに惚れ込まれてみたいなぁ」  吉岡さんがのん気にそんな事を言っていた。多分、純粋に絵の事を言ってくれてるんだと思うけど、俺はなんだかドキドキしてしまった。

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