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第44話
-子供がね、シュンの子じゃ無かったみたいなの-
三宅さんの言った言葉が頭の中でこだました。
「でもシュンさんは、子供が大事だって言ってたし、今幸せだって」
「私だってよくわからないわよ、母が聞いた話だし。離婚は確実だと思うけど、子供の話は本当なのかどうかわからないんだから」
俺がちょっと責めるような言い方をしてしまったので、三宅さんがビックリしたように言い返してきた。
「そうだね、ごめん」
「でもさ、渡辺さん、離婚が本当なんだったら、シュンが幸せだって言ってる理由は、他にあるんじゃない? 例えば、新しい恋人がいるとか、そんな感じじゃないのかな?」
吉岡さんはシュンのファンだって言う割りに、サラリとそんなことを言った。
「そうかもしれないわよね。シュンさんなら回りが放っておかないわよね」
2人が話している間、俺は黙って俯くしかなかった。
恋人が居る? あり得ない事じゃない。だって、シュンはあんなに魅力的な人だから。離婚が事実だとしても、シュンが公表しないつもりならば、俺がそれを聞き出すわけにもいかない。
だけど、もし本当に離婚しているのなら、俺――。
「そっか。シュンがフリーって事は、私にだって少しはチャンスあるのかな? なんてね」
吉岡さんが何気なく言ったその言葉が、俺の思いと同じだったので、俺は自分が滑稽に思えてしまった。そんな自分勝手な思いを一生懸命振り払い、吉岡さんに意見をする。
「だって、吉岡さん、今さっき、シュンには恋人が居るんじゃない? とか言ってただろ?」
「何言ってるのよ、渡辺さんたら。そんなのわからないんだし、シュン本人が恋人がいるって言ったわけでもないんだから。アタックしてみなきゃわからないでしょ? また、お見舞いに来るって言ってたよね? ねぇ、渡辺さん、シュンが来たら教えてよー。私、すぐに飛んでくるから。待ってるだけじゃ欲しいものは手に入らないもの!」
「もう、吉岡さん、そんな事言って、シュンさん離婚したって事言ってないでしょ」
「言った後じゃ遅いわよ。今のうちにアプローチしておかなくちゃ」
「でも、吉岡さん、彼氏どうするのよ?」
「あ、そうよね? いけない。忘れてた」
まったく。吉岡さんの発言には驚きっぱなしだ。彼氏、居るんだったじゃないか。すごい男前なんだって、この間飲みに言った時話していたのに。
「いけない! 私、待ち合わせしてたんだ」
「しょうがないわねぇ、吉岡さんったら」
「それじゃね、渡辺さん、お大事に。また来るわ、シュンに会えるかもしれないし」
そう言った吉岡さんに、呆れた顔を向けてから、三宅さんが言った。
「渡辺さん、何か必要なものあったら、事務所に電話して。あ、でも彼女が居るんでしたっけ?」
「ん? いや、今居ないから。何かあったら、お願いするかもしれない。有難う」
三宅さん達にまで彼女がいるって嘘を言うのが面倒で、そう答えた。
それに、「彼女がいる」って言ったら、今度会った時に色々聞き出そうとして煩いに違いない。でも、「いない」って言っておけば、それ以上は聞かれないだろうから。
そして、嵐のように吉岡さんと三宅さんは帰って行った。
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