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第47話

 その後シュンは、ノートにあった絵の事には何も触れず、色々な話をしていた。 俺の病院生活の話を聞いて来たり、昔シュンが風邪をこじらせて入院した時の話をしてくれたり、曲作りが終わったから、そろそろレコーディングに入るとか、サチがレコーディング中はあまり進藤に合えなくなるってシュンに文句を言ってるとか、そんな話を楽しそうにしていた。 「俺も、病院に来れなくなるかなぁ」  シュンがポツリと呟いた。 「無理しないで下さいよ。別に俺、重病人じゃないから」 「まぁ、そうだけど…。でも、スタジオから意外と近いから、時々抜け出して来ようかな」 「いいですよ。じゃあ、その時は何か美味しいもの持ってきて下さい。一緒に息抜きしましょう」  そう言うと、シュンが俺の事をジッと見つめた。この位の我がままなら、許されるよね? 「うん、わかったよ。今度は何にしようかな?」 「シュンさんにお任せします」 「了解、任せてよ」  可愛い笑顔を向けながらシュンが言った。その後、シュンが両手でかかえるようにして持っていたノートを、ギュッと抱きしめたように見えた。 「あのさ、鷹人。鷹人には迷惑かけるかも知れないけど、あの…待ってて」 「え、何を?」 「また来るから」  シュンはそう言うと、ノートをサイドテーブルに置いて立ち上がった。 「あ、はい。えっと、有難う御座いました。レコーディング、頑張って下さい」 「うん、ありがとう。俺、頑張るよ」  シュンが俺をジッと見つめてから病室を出て行った。 「待ってて」って何だろう? 俺に迷惑が掛かるかもって?  何だろうと思いながら、シュンが置いたノートをテーブルから取り、ペラペラと捲っていた。思うように手が動かせなくて、かなり苦戦していた頃の絵も見られてしまったのが恥かしかった。 「あれ?」  ついさっき描いたシュンの横顔の絵の下に、小さな字が書いてあった。  - 本当の笑顔を書いて欲しいんだ。嘘をついててごめん、俺は -  そこまでで文章が終わっていた。 シュンの言葉、それにこのノートにある文章、シュンは俺に何を伝えようとしていたのだろう?  その日から、シュンの言葉が気になって眠れない夜が続いた。 そのせいで昼間は眠気に襲われ、食事とか必要最低限の事をやる以外はベッドで大人しく眠っている感じになってしまった。 仕事の依頼の多い時のように、夜になると絵を書いて昼間は眠って、そんな日が何日か続いた。 だから最近、テレビの芸能ニュースで何が話題になっていたかなんて、知りもしなかった。  金曜の夕方に、吉岡さんと三宅さんが再びお見舞いに来てくれた。 「ねぇ、渡辺さん、今日朝のニュース見た?」 吉岡さんが、「調子はどう?」と言った後に、すぐにそう聞いてきた。 「え、見てないけど」 「何だ、そうなの? それがね、私達がこの間話してた話題だったから、ちょっとビックリしたの。話を聞かれたのかとか思ったわ」 「この間の話って?」 「シュンの事よ。離婚してたって」

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