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第49話

 そして、退院の日を迎えた。 『また来るよ』って言ってくれたシュンだったけど、あの日から一度も来なかった。 レコーディングで忙しくなると言っていたけど、それよりも、離婚の話の後に出た、女性関係の噂が原因で、思うように出掛けられなかったのかもしれない。  雑誌の記事によると、シュンの新しい恋人だと名乗る女性が3人も現れたということだ。  年上の美人女優、外資系会社の役員秘書、女医。どの話も女性からの一方的な告白話として雑誌に出たという事だ。俺は、そんな記事読みたくも無かったのだが、吉岡さんと三宅さんがそれぞれの女性の話を一通り喋っていった。  どの女性もどこまで本当の事を言っているのかわからない。 でも、気になったのは、役員秘書だと名乗る女性の話だった。  三宅さんが話していた内容がよみがえる。 『シュンのおヘソの少し下に、3つホクロがあるって、そんな話してるのよ。ちょっと嫌よねー。そんな事知ってるのって、肉体関係ありますよーってあからさまに言ってる感じで』  俺も覚えている、確かにホクロがあった。だって、俺はその場所にキスをしたから。そんな事、三宅さん達には決して言えないけど。  そうすると、そんな事知っているのは、その女性がシュンの恋人だからなのだろうか? でも、そんな話を雑誌記者にしてしまうような女性が、シュンの彼女でなんてあって欲しくなかった。だけど…俺が口を出すことじゃないんだ。  色々考えながら、荷物をまとめていると、進藤が迎えに来てくれた。仕事の合い間に車で家まで送ってくれると言っていたのだ。 「鷹人、もう先生とかには挨拶したのか?」 「あぁ。とっくに済んでるよ。ナースセンターにも、お前の持って来てくれたお菓子渡しておいたし。助かったよ」 「サチが色々言ってくれたもんでね」 「そっか。彼にもお礼言っておいて」 「おう。じゃ、行こうか? 荷物は持っていってやるよ」 「ありがと。あ、でも、ちょっと待って」  俺はタバコを持って喫煙所に行ってみた。そこでは、いつものように西村さんがタバコを吸っていた。 「西村さん、色々有難う御座いました。これ…」  タバコのカートンを差し出すと、西村さんは少し困ったような顔をしたが、すぐに受け取ってくれた。 「ありがとな。遠慮せずもろておくわ。それにしても、良かったのー。ちびと寂しゅうなるわ」 「俺もです。西村さんの話、楽しかったし」 「まぁ、実際、わいみたいな生活してへん奴にはおもろいかもな」  西村さんが初めて辛そうな顔をした。 「身体に気を付けて…」 「あぁ。大丈夫。わい不死身やし。じゃ、渡辺君、元気でな。悔いのない人生を送れや」 「はい」  俺は病室に戻り、待っていてくれた進藤と病院を出た。  -悔いのない人生…か―  進藤の車に乗り、家まで送ってもらう。久しぶりの我が家だ。いったいどんな状況で出て来たんだろう? 「薬とかって、まだあるんだろ?」 「傷に塗るやつと飲み薬、もう少し続けておいた方が良いらしい」 「お前、薬塗るの自分で出来るか?」 「どうにか出来るよ。塗らなくても、もう大丈夫だと思うし」  俺がそう答えると、進藤が怒ったような顔をした。 「いや、だめだろ? 俺が塗りに来るよ。ちょっと用事があるから、一度事務所に戻ってからまた来るから」 「え、良いって、わざわざ悪いし」  俺がそう言ったけれど、進藤は後で来るの一点張りだったので、仕方なくお願いすることにした。自分でもちゃんと濡れると思うのだけど――。 「じゃ、来る時に電話するわ」  進藤は俺の荷物を部屋に運び込んだ後、そう言って手を振った。 「了解」  俺はもう一度進藤にお礼を言った。 「ホント助かったよ、ありがとな」 「おう。じゃあ、後でな」 「よろしく」 「あ、来る時、退院祝い持ってきてやるよ」

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