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第50話

 進藤を見送った後、俺は洗濯物を洗濯機に放り込んでから、部屋の中を片付けてまわった。 入院中とは違って、傷口に違和感を覚えるけれど、多分生活に支障は無いだろう。  気になる所の片付けがほぼ終わり、昼飯を簡単に済ませた。すぐにでも風呂に入りたい気分だったけれど、進藤が来てくれてから入る事にした。  洗濯物を干し終わった後、風呂にお湯を入れ始めた。一休みしようと椅子に座ると、スマホが鳴った。 「はい、俺」 「やあ、お待たせ。お前の家のすぐ近くまで来てるよ」 「おう、サンキュ」  進藤が来たらすぐ風呂に入れるように、Tシャツにトランクスという格好になった。 しばらくすると、ドアフォンが鳴った。 「待ってたよ、進藤」  相手を確かめずにドアを開けると、ドアの前に立っていたのは、進藤では無く――。 「あ、あれ?」  俺は、自分のマヌケな格好を思い出して慌ててしまった。 「やぁ」 「あ、あの、進藤かと思って。すみませんこんな格好で」  目の前にいたのは、熊のような進藤ではなく、可愛らしい俺の大好きなシュンだった。 「鷹人、久しぶり」  シュンが俺の大好きな笑顔を見せてくれた 「退院おめでとう」 「有り難う御座います」 「ねぇ、鷹人くん、家に入れてくれる?」  シュンがすぐにそう言った。 「あ、はい…どうぞ」  シュンを部屋に通すと、俺はスウェットでも着てこようと思った。 「ちょっと待ってて下さい。何か着てきます」 「いいじゃない、風呂に入るんだろ?」 「えぇ、だけど、あの、お茶でも…」 「鷹人、気にしないで良いから、入っておいでよ。進藤君に頼まれたんだ、薬のこと」  もしかしたら進藤の言っていた退院祝いって、このことなのか――嬉しいのか恥ずかしいのか、俺は複雑な気持ちになっていた。 「進藤のやつ…すみません、シュンさんにそんなお願い――」 「良いんだよ、俺、鷹人に会いたかったんだ。約束してたのに、お見舞い行けなかっただろ? 今日は持ってきたよ、美味しそうなケーキ。それから、退院祝いのワインね」 「有り難う御座います。そんな、気にしないで下さい。シュンさん忙しかったんでしょ?」  俺がそう言うと、シュンは少し困ったような顔をしながら微笑んだ。 「うん、まぁ、色々とね。とにかく風呂に入ってきなよ」  シュンが本当に忙しかったような感じだったので、申し訳なくなってしまった。だけど、俺に会いたかったと言ってくれたことがメチャメチャ嬉しかった。 「じゃあ、入ってきますから、ちょっと待ってて下さいね」 「ゆっくり入っておいでよ。久しぶりなんだろ?」 「はい」  病院で何回かシャワーを浴びたけれど、ずっと湯船につかりたいと思っていたから、家の風呂に入るのが待ち遠しかったのだ。 「あの、シュンさん時間は大丈夫なんですか? 俺、ホントにゆっくり入ろうかと思ってたから――」 「大丈夫だよ。ほら、入ってきな」  俺は、シュンに追い立てられるように風呂場に行って、服を脱いだ。腕を上げると背中に違和感を覚えた。引き攣れるような感じだ。 でも、生きていたんだし、シュンにもこうやって会えるんだ。本当に良かった。これ以上多くを望んではいけないんだ。  軽く体を流した後、湯船に浸かった。「はあー」っと声が出てしまうくらい気持ちが良かった。これが生きてるって事なんだよなぁ、なんて。神様本当にありがとう!  それにしても、進藤は何でシュンに頼んだ――?  進藤の言っていた退院祝いがシュン…本当にそうなのか? そう考えて、自分の脳天気さに笑ってしまった。あり得ないな…。

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