50 / 62
第50話
進藤を見送った後、俺は洗濯物を洗濯機に放り込んでから、部屋の中を片付けてまわった。
入院中とは違って、傷口に違和感を覚えるけれど、多分生活に支障は無いだろう。
気になる所の片付けがほぼ終わり、昼飯を簡単に済ませた。すぐにでも風呂に入りたい気分だったけれど、進藤が来てくれてから入る事にした。
洗濯物を干し終わった後、風呂にお湯を入れ始めた。一休みしようと椅子に座ると、スマホが鳴った。
「はい、俺」
「やあ、お待たせ。お前の家のすぐ近くまで来てるよ」
「おう、サンキュ」
進藤が来たらすぐ風呂に入れるように、Tシャツにトランクスという格好になった。
しばらくすると、ドアフォンが鳴った。
「待ってたよ、進藤」
相手を確かめずにドアを開けると、ドアの前に立っていたのは、進藤では無く――。
「あ、あれ?」
俺は、自分のマヌケな格好を思い出して慌ててしまった。
「やぁ」
「あ、あの、進藤かと思って。すみませんこんな格好で」
目の前にいたのは、熊のような進藤ではなく、可愛らしい俺の大好きなシュンだった。
「鷹人、久しぶり」
シュンが俺の大好きな笑顔を見せてくれた
「退院おめでとう」
「有り難う御座います」
「ねぇ、鷹人くん、家に入れてくれる?」
シュンがすぐにそう言った。
「あ、はい…どうぞ」
シュンを部屋に通すと、俺はスウェットでも着てこようと思った。
「ちょっと待ってて下さい。何か着てきます」
「いいじゃない、風呂に入るんだろ?」
「えぇ、だけど、あの、お茶でも…」
「鷹人、気にしないで良いから、入っておいでよ。進藤君に頼まれたんだ、薬のこと」
もしかしたら進藤の言っていた退院祝いって、このことなのか――嬉しいのか恥ずかしいのか、俺は複雑な気持ちになっていた。
「進藤のやつ…すみません、シュンさんにそんなお願い――」
「良いんだよ、俺、鷹人に会いたかったんだ。約束してたのに、お見舞い行けなかっただろ? 今日は持ってきたよ、美味しそうなケーキ。それから、退院祝いのワインね」
「有り難う御座います。そんな、気にしないで下さい。シュンさん忙しかったんでしょ?」
俺がそう言うと、シュンは少し困ったような顔をしながら微笑んだ。
「うん、まぁ、色々とね。とにかく風呂に入ってきなよ」
シュンが本当に忙しかったような感じだったので、申し訳なくなってしまった。だけど、俺に会いたかったと言ってくれたことがメチャメチャ嬉しかった。
「じゃあ、入ってきますから、ちょっと待ってて下さいね」
「ゆっくり入っておいでよ。久しぶりなんだろ?」
「はい」
病院で何回かシャワーを浴びたけれど、ずっと湯船につかりたいと思っていたから、家の風呂に入るのが待ち遠しかったのだ。
「あの、シュンさん時間は大丈夫なんですか? 俺、ホントにゆっくり入ろうかと思ってたから――」
「大丈夫だよ。ほら、入ってきな」
俺は、シュンに追い立てられるように風呂場に行って、服を脱いだ。腕を上げると背中に違和感を覚えた。引き攣れるような感じだ。
でも、生きていたんだし、シュンにもこうやって会えるんだ。本当に良かった。これ以上多くを望んではいけないんだ。
軽く体を流した後、湯船に浸かった。「はあー」っと声が出てしまうくらい気持ちが良かった。これが生きてるって事なんだよなぁ、なんて。神様本当にありがとう!
それにしても、進藤は何でシュンに頼んだ――?
進藤の言っていた退院祝いがシュン…本当にそうなのか? そう考えて、自分の脳天気さに笑ってしまった。あり得ないな…。
ともだちにシェアしよう!