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第51話
しばらく暖まった後、湯船から出て、まず頭を洗った。次に体を洗おうとスポンジにボディソープを付けていると、急に風呂場のドアが開いた。
「え、あの?」
後ろを振り向いて、俺は1人で焦りまくっていた。
「背中、洗ってあげるよ」
シュンが惚けている俺の手からスポンジを取って、さっさと背中を洗い始めた。
「あの、服が濡れちゃいますよ」
「鷹人がお湯かけなきゃ大丈夫だよ。背中洗ったらすぐ出るから」
「は、はい。すみません」
シュンの手が俺の背中に触れた。その感触にビックリして体が強張ってしまった。
「傷、結構大きいね」
「あの、自分じゃ見た事無くて」
「そっか。見えないほうが良いかもね」
シュンの声が震えているようで、胸が締め付けられるような思いがした。
背中を洗った後、シュンがもう一度傷のまわりをなぞるように指を滑らせた。
「鷹人、あのさ」
「何ですか?」
「後で、話があるんだ、聞いて欲しい」
「え、はい。もちろん」
背中をなぞっていた指が離れ、俺にスポンジを返してきた。
「はい、終わったよ。じゃ、待ってるからね」
湯船から汲んだ湯で手を洗うと、シュンが風呂場から出て行った。
俺は身体を洗い終わると、もう一度湯船に浸かった。シュンの言っていたことが気になっていた。一体何の話だろう…。
考えすぎてのぼせてしまいそうになり、慌てて風呂を上がると、身体を拭いてからTシャツとスウェットを身に付けて、頭を拭きながら居間に向った。
「お待たせして済みませんでした。すっごくサッパリして気分いいです。やっぱり日本人は湯船に浸からなきゃですよね」
俺は何を話したらよいのかわからなくて、そんな事を口にしていた。
「そうだね、俺も風呂は大好きだよ。一日の疲れがとれるよね」
「いやぁ、でも、今日の風呂は、今までで1番スッキリした感じです。入院生活の疲れがとれました」
「良かったね」
シュンが優しい微笑を向けてくれて、俺はちょっと照れてしまった。
「あ、ちょっと待ってて下さい。シュンさん、何飲みますか?」
「いいから。まず、薬つけてあげるよ」
ここに座って。と言ってシュンがフローリングの床を指差し、シュンもソファーから床に座りなおしていた。
「薬持ってきます」
病院でもらった薬の袋を持って、シュンの前に座った。
「じゃあ、お願いします」
説明してから、薬をシュンに渡した。
「はい、背中出して。Tシャツは脱いだほうがやりやすいかな」
Tシャツを脱ぎ、シュンに背中を向けて座ると、やけにドキドキしてきた。
シュンの指が傷口に薬を塗っていく。その優しい指の動きに反応して、身体の中が熱くなった。
「はい。出来たよ」
シュンの声がして、ハッと我に返った。俺は、最後にシュンを抱いた時の事をボンヤリ考えていたのだ。
「あ、ありがとうございます」
動揺を隠したかったけれど、全然できてなかった。
「どういたしまして」
シュンが薬を床に置いた。俺は座ったまま、慌ててTシャツを着た。
「鷹人、明日からはどうするの?」
「え?」
「自分じゃ出来ないでしょ?」
「えっと、何とかやりますよ。一応手は届くと思うし」
「そっか。でも、心配だな。だから…」
言葉を切ってしまったシュンに、心配をかけてはいけないと思って答えた。
「大丈夫ですよ、心配しないで下さい」
「そうじゃなくて…俺がやってあげるから」
「え?」
「俺がやるよ」
シュンがもう一度言った。
「でも、悪いですよ」
そう言った俺の身体を、シュンが背中から抱きしめてきた。
「俺にやらせて?」
「あの、でも」
シュンの意図していることがわからなくて、言葉が出てこなかった。
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