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第52話

「鷹人、ごめん。俺、おまえが好きなんだ。今でも」  突然のシュンの告白に心臓が跳ねた。 「え、でも、シュンさん」 「俺ね、今1人なんだ。離婚の話、知ってる?」 「まぁ…」 「鷹人が俺の為を思ってくれたのに、俺、幸せになれなくて…ごめん」 「そんな。俺…日本に帰ってくるべきじゃなかったのかなーー」 「違うよ、鷹人。離婚は鷹人のせいじゃない。恥かしい事なんだけど、息子は、俺の子じゃなかったんだ。本当にバカみたい。タカトの名前まで付けたのに」  それからシュンは、自分の事を語り始めた。 「妻との結婚は、彼女から求められてだったんだ。彼女を愛していたのかは、自分でもわからない。英明との事があってから、恋愛に臆病になってた。『好きだ』といわれても、俺のどこが好きなんだろう?って。それに、誰かを好きになる事も出来なかなった。恐かったんだ、拒絶される事が。だから、俺の事、本当に必要としてくれる人がいたら、その人と一緒になろうって思ってたんだ。彼女は俺に会うたびに『愛してる』って言ってくれて、俺が必要で、傍にいて欲しいって言ってくれた。だから、彼女とならもしかして、普通に結婚生活が送れるんじゃないかって思った。でも、そんな彼女の事、大切に出来なかった。結婚して、1年も経たないうちに彼女には男が居たみたい。それがはっきりわかったのは最近なんだけど。仕事で忙しい俺との結婚生活は寂しかったんだと思う。それでも、鷹叶が生まれてからは彼女とも上手くいってた。だけど、鷹叶は俺の子じゃ無かった。それがわかってから、お互いギクシャクしちゃって、彼女が離婚しようって」  シュンが俺の背中に顔を埋めながら呟いた。  鷹叶君が交通事故にあった時、輸血の為に血液検査をしたそうだ。検査の結果、鷹叶くんの血液型は、奥さんの言っていた血液型では無かったそうだ。シュンと奥さんの間には生まれないはずの血液型。 その事故が無かったら、嘘で固められていた幸せだったけど、夫婦生活は続いたのかもしれないって寂しそうに話していた。 「鷹人は、俺のためを思って、俺の前から去った。だから、俺も鷹人に幸せになってもらいたいって思って、幸せだって、嘘をついた。でも、鷹人がケガをした時、君が居なくなったらどうしようって。そう思ったら、辛くて苦しくて耐えられなかった。鷹人に彼女が居るの知ってるけど、諦められない。傍にいて欲しい。今まで出会った誰よりも鷹人の事、愛してる」  シュンの言葉が心に染み込んだ。 「シュン」 「ごめん、俺、また、鷹人を困らせているよね」  背中でシュンが小さく震えていた。信じられないような告白だった。 「あのね、シュンさん。ごめんなさい。俺も嘘ついてました」  シュンが背中に押し付けていた顔を少し離した。 「え?」 「俺ね、今、彼女いないんです」 「だって…」  シュンが俺の前にまわって来て、俺の両手を握りしめ、俺を見つめた。 「ジョアンは、向こうにいた時の彼女です。でも、日本に帰る時、別れました」 「だけど、この間会った時…」 「あの日、確かにジョアンと朝まで一緒でした。でも、彼女、新しい彼氏と結婚する事が決まってるって言ってました」 「鷹人…」  シュンが俺の身体に腕を回し、ギュッと抱きしめた。 「俺も、ずっとあなたの事を思っていました。だから、日本に帰るのはやめようと思っていたんです。でも、帰ってきて良かった」  俺もシュンの事を抱きしめた。シュンの身体を膝の上にかかえ上げ、見つめ合った後、お互いに顔を寄せ合い、啄ばむようにキスをした。 「これは、夢なのかな?」 「夢じゃないですよ。だって、俺、心臓が痛いから」 「え、大丈夫?」 「大丈夫ですけど…。もう、なんか感激です」 「俺もだよ」  もう一度唇を合わせると、今度は深いキスをする。嬉しくて身体が震えそうだった。 シュンの温かな舌が、俺の舌に絡みつく。絡みついてきた舌を軽く吸ってみると、シュンが鼻にかかった甘い声をだした。  俺たちは呼吸が乱れて息苦しくなるまで、長い長いキスをした。

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