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第53話
唇を離してシュンを見つめていると、俺はある事を思い出した。 そうだ、シュンには恋人がいるはず。
シュンは、戸惑っている俺の頬を、両手で優しく包み込んだ。
「どうしたの? そんな顔して?」
「シュンさん、あの、新しい恋人って…?」
「鷹人、雑誌読んだの?」
「いえ、読んで無いんですけど、吉岡さん達――この間病院でシュンさんも会ったでしょ? 彼女達が教えてくれたんです。吉岡さんは、あなたのファンだから、色々知りたいんだと思います。でも、俺は、知りたくなかったな」
「そう。あのね、正直に話すよ。あの中の誰とも、今はつき合っていない。でも、彼女達は多分、ずっと前に関係を持ったことがある人達だと思う」
俺はショックだった。聞きたく無かったのに。でも、昔誰と付き合っていたとしても、今ここに居るシュンの言葉を信じようと思う。
「俺ね、結婚する前は、求められれば関係を持っていた時期があるんだ。相手が男の事もあったよ。いつか、本当に俺の事愛してくれる人が現われるんじゃないかと思ってた。でもね、皆、澤井瞬が好きなわけじゃなくて、サーベルのシュンが好きだったんだ。そんな時、ミサと会って、彼女だったらって思ったんだ。結局上手くいかなかったんだけど」
「シュンさん、もう、いいよ。俺、本当は聞きたく無いんだ」
「わかったよ。でも、他の人から聞くより、俺が話しておいたほうが良いかなと思って」
「俺ね、ずっと前にシュンさんが出会ってた人、全員に嫉妬してしまいそうだから。だから、もういいよ」
「わかったよ。でも、本当はミサに会うより先に鷹人に会っていれば良かったな。そうしたら、こんなにまわり道しないで済んだのに」
「でも、これが運命なんですよ、きっと。ミサさんより先に会ってたら、俺の事、他の人と同じように思ったかもしれないですよ」
俺がそう言うと、シュンが少し拗ねたような顔をした。
「そんな事、絶対無い」
俺を見て口を尖らせるュンが愛しかった。
「ねぇ、シュン、俺の特別な人になってくれる?」
シュンの身体を膝の上からおろし、お互いに向き合うように座ってからシュンの目を覗きこんだ。大きな目が俺をジッと見つめていた。
「もちろん。嬉しいよ鷹人」
「良かった。来世じゃなくて、今こうして、あなたといられて」
シュンが俺の腕の中に飛び込んできた。夢のようだ。
――やっと掴まえた、俺だけの天使――
もう一度シュンの身体を抱きしめ、キスをした。時折聞こえるシュンの切ないような甘い声に体がどんどん熱くなる。
「鷹人、抱いてくれる?」
「今、抱いていいの?」
「抱いてくれないと困る…」
シュンが熱くなった身体を押し付け、俺の唇を指で辿りながらそう言った。俺はシュンを立たせて、自分も立ち上がると、その華奢な身体を抱き上げた。
「あ、いてて…」
無理が掛かったのか、背中の傷がメチャクチャ痛かった。治ったんじゃないのかよって思ってしまう。こんな時に情けない。
「鷹人、大丈夫?」
「ごめんなさい。シュン」
「良いよ、歩いていけるから」
2人で手を繋いでベッドルームに向おうとしたその時、『ピンポーン』と玄関のチャイムが鳴った。なんてタイミング悪いんだろう。
「宅急便かな?」
出ないで済ませようとして、シュンの手を引いた。だけど、シュンが何かを思い出したように呟いた。
「そうだ」
「え?」
「玄関、出なくちゃ」
俺は居留守を使おうと思ったのに、シュンがそう言うものだから、渋々インターフォンに出た。
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