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第55話

 嬉しくてニヤケながら居間に戻り、テーブルを何気なく見てみたら、白い封筒が置いてあった。俺はそれを手にとってしばらく眺めていた。 「何だろう? シュンかな?」  封筒を開けてみると、そこには俺の写真が入っていた。俺が個展を開いた時の写真だった。 色々な人に囲まれて、俺が天使の絵の前で話をしている時の写真だ。シュンが撮った写真だろうか? 他にも何枚か入っていたが、全て俺の写真だった。写真以外に、メッセージカードが一枚入っていた。  -写真を返します。君の事を思うと辛いから。僕の事、いつも描いてくれて有り難う。これ からは仕事の仲間としてよろしく。 澤井瞬 -  もしかしたら、シュンがここに来た理由は、自分の気持ちに踏ん切りをつける為だったのかもしれない。 俺に傍に居て欲しいって言ってたけど、諦める覚悟をしていたんじゃないだろうか。  でも、返すって言っても…俺があげたわけじゃないんだけどな。俺は、その写真とカードをゴミ箱に捨てた。こんな隠し撮りの写真、もう必要ないよね。俺、出来るかぎりシュンの傍にいるよ。それから、2人の将来の事を真剣に考えていこう。  俺は仕事部屋に行って、必要の無くなった資料を整理した。断わらないで済んだモノだけ残すと、明日から取り掛かれるように、少し描きこんでみようと思った。 鉛筆を出し、白い紙に線を描く。久しぶりに楽しいと感じた。病院に居た頃は思ったように線が描けなかったけれど、これならもう大丈夫かもしれない。  しばらく、自由に絵をかいていると、横でスマホが鳴り出した。 「はい、渡辺です」 「あ、鷹人? あのさ、俺、忘れ物した」 「え? 何をですか、届けましょうか? 今何処に居るんですか」 「今、まだ進藤君の車の中。道が混んでて。えっと、別に届けなくていいんだけど、あのね、テーブルの上にさ」 「もしかして、『これからは仕事の仲間として』って奴ですか?」 「もう見ちゃったのか。あのさ、あれ」 「もしかして、シュンさん、自分の気持ちだけ言って、帰るつもりだったんじゃないですか?」 「そうじゃないけど。鷹人はきっと、あの金髪の恋人から離れられないと思って」 「どうしてですか?」 「あの時、前に会った時、彼女すごい挑戦的な目で俺の事見ててさ。俺、絶対に勝てないなって思ったんだよ」  シュンが拗ねたように言った。  もし彼女と付き合っていたとしても、あなたがあんな行動とったら、きっとあなたの所に行ってたんじゃないかな――。 「あれ、捨てておきました。もう必要ないでしょ? 俺が居るから」  だって、俺はずっとずっと、あなたの事が好きだったから。 「えっと、さ、今日の夜、もしかしたら行くから」 『シュンー、そんな事言って、渡辺さんに期待させたらダメだよ』  サチの声が割って入った。 「あの、無理しないで下さいね」 『サチ、電話借りて。シュンさんから』  進藤の声が聞こえて、雑音が続いた後、進藤が電話に出た。 「この間のやつ、締め切りのびたけど、早めに終わらせろよ」  このタイミングで言ってくるのが進藤だよな…。 「わかってるよ。今からやるって」 「そうそう、頑張れよ。じゃなー」  進藤はそれだけ言うと、シュンに代わってもくれずに電話を切ってしまった。  仕方ないか。仕事は明日からにしようと思っていたけれど、すぐに取り掛かることにしよう。

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