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第57話

 長いキスの後、お互いに唇を離して見つめ合った。 「お帰りなさい、シュンさん。お疲れ様」 「ただいま、鷹人」  俺は、その時になってシュンの服装に気が付いた。 「シュンさん、その格好なんだか、珍しいですね?」  学生が着るような服装に、メガネを掛けているシュンは手にはニットキャップを持っていた。 「ん? ちょっとコンビニに寄りたかったから、サチに服借りたんだけど。どう、似合ってる?」 「え、まぁ…かなり」 「あはは。無理してるね鷹人。俺、自分でもちょっと恥かしかったんだけど、買いたいものがあってね」  シュンがそう言ってウインクした。 「何を買ったんですか?」 「えーとね、これ」  シュンがそう言いながらコンビニの袋を持ち上げた。俺は袋の中を覗いてから、シュンの顔をもう一度見た。 「それ、買ってたんですか…」 「そっ。必需品でしょ」  目の前の天使が、いたずらっ子のように笑っていた。本当に良いの? 「でも、サチさん何て言ってましたっけ?」 「鷹人は俺とサチと、どっちの言う事聞くんだよ?」  可愛く微笑んでいるけれど、シュンの言い方がちょっと恐かった。シュンとサチのどちらの言う事聞いても、誰かが文句を言われそうなんだよな――。 でも、俺はやっぱりシュンと同じ気持ちだから。 「そりゃあ、シュンさんに決まってるじゃないですか」  俺がキッパリと言うと、シュンの眉がピクリと動いた。 「ちょっと、引きつってない? 鷹人」 「そ、そんな訳ないですよ」  笑顔で言ったつもりだったのだけど、顔に出ていたのか? サチと進藤にからかわれることに決定!って感じなんだけど。  まぁ、いいか。そんなこと――。 「ねぇ、鷹人、シャワー借りていい?」  俺がまた1人でグルグル考えていると、シュンがさっさと風呂場の方に歩き始めていた。 「あ、はい。もちろん」 「ありがと。それからね、鷹人」  風呂場に行きかけたているシュンがパっと振り向いた。 「何ですか? シュンさん」 「あのね、その敬語で喋るの禁止。わかった?」 「は、はい」 「だからぁ――」  そうか、そうだよね――。  俺はシュンのそばまで近寄って行き「わかったよ、シュン」と言ってから、シュン顔を両手で包み込み、額にチュッとキスをした。 すると、シュンは急に恥ずかしそうに俯いてしまった。  本当に不思議な人だね。愛しくてたまらないよ――。 俯いて赤くなってるシュンの頭をくしゃくしゃっと撫ぜてから、顔を覗き込む。 「シュン、早くシャワー浴びたら」  俺がそう言ったら、恥かしそうにちょっと視線を泳がせてから、シュンが微笑んだ。 「ん、わかったよ。鷹人は?」 「朝、浴びたから良いかな…」 「そっか。じゃあ、待ってて、すぐにシャワー浴びてくるから」  シュンが嬉しそうに手を振りながら、風呂場に向った。 「シュン、着替えは?」 「んー? 鷹人の服、適当に貸して。そうだ、今度、着替えも持って来ようっと。それから歯ブラシとかコップとか。なんかワクワクするなー」  脱衣所から楽しそうな声が聞こえてきた。 俺は、急にライブの時のシュンを思い出して可笑しくなって、1人でクスクスと笑ってしまった。  本当に無邪気で可愛いシュン。 それって、俺の前だから? そうだとしたら、もう他の誰にも見せたくない。その無邪気な姿も、はにかんだ笑顔も、キスする時の表情も、あなたのすべてを――。  しばらく、シャワーの音が聞こえていたが、急に風呂場のドアが開いて、シュンの声がした。 「鷹人! 大変だ。すぐ来て、早く」

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