57 / 62
第57話
長いキスの後、お互いに唇を離して見つめ合った。
「お帰りなさい、シュンさん。お疲れ様」
「ただいま、鷹人」
俺は、その時になってシュンの服装に気が付いた。
「シュンさん、その格好なんだか、珍しいですね?」
学生が着るような服装に、メガネを掛けているシュンは手にはニットキャップを持っていた。
「ん? ちょっとコンビニに寄りたかったから、サチに服借りたんだけど。どう、似合ってる?」
「え、まぁ…かなり」
「あはは。無理してるね鷹人。俺、自分でもちょっと恥かしかったんだけど、買いたいものがあってね」
シュンがそう言ってウインクした。
「何を買ったんですか?」
「えーとね、これ」
シュンがそう言いながらコンビニの袋を持ち上げた。俺は袋の中を覗いてから、シュンの顔をもう一度見た。
「それ、買ってたんですか…」
「そっ。必需品でしょ」
目の前の天使が、いたずらっ子のように笑っていた。本当に良いの?
「でも、サチさん何て言ってましたっけ?」
「鷹人は俺とサチと、どっちの言う事聞くんだよ?」
可愛く微笑んでいるけれど、シュンの言い方がちょっと恐かった。シュンとサチのどちらの言う事聞いても、誰かが文句を言われそうなんだよな――。
でも、俺はやっぱりシュンと同じ気持ちだから。
「そりゃあ、シュンさんに決まってるじゃないですか」
俺がキッパリと言うと、シュンの眉がピクリと動いた。
「ちょっと、引きつってない? 鷹人」
「そ、そんな訳ないですよ」
笑顔で言ったつもりだったのだけど、顔に出ていたのか? サチと進藤にからかわれることに決定!って感じなんだけど。
まぁ、いいか。そんなこと――。
「ねぇ、鷹人、シャワー借りていい?」
俺がまた1人でグルグル考えていると、シュンがさっさと風呂場の方に歩き始めていた。
「あ、はい。もちろん」
「ありがと。それからね、鷹人」
風呂場に行きかけたているシュンがパっと振り向いた。
「何ですか? シュンさん」
「あのね、その敬語で喋るの禁止。わかった?」
「は、はい」
「だからぁ――」
そうか、そうだよね――。
俺はシュンのそばまで近寄って行き「わかったよ、シュン」と言ってから、シュン顔を両手で包み込み、額にチュッとキスをした。
すると、シュンは急に恥ずかしそうに俯いてしまった。
本当に不思議な人だね。愛しくてたまらないよ――。
俯いて赤くなってるシュンの頭をくしゃくしゃっと撫ぜてから、顔を覗き込む。
「シュン、早くシャワー浴びたら」
俺がそう言ったら、恥かしそうにちょっと視線を泳がせてから、シュンが微笑んだ。
「ん、わかったよ。鷹人は?」
「朝、浴びたから良いかな…」
「そっか。じゃあ、待ってて、すぐにシャワー浴びてくるから」
シュンが嬉しそうに手を振りながら、風呂場に向った。
「シュン、着替えは?」
「んー? 鷹人の服、適当に貸して。そうだ、今度、着替えも持って来ようっと。それから歯ブラシとかコップとか。なんかワクワクするなー」
脱衣所から楽しそうな声が聞こえてきた。
俺は、急にライブの時のシュンを思い出して可笑しくなって、1人でクスクスと笑ってしまった。
本当に無邪気で可愛いシュン。
それって、俺の前だから? そうだとしたら、もう他の誰にも見せたくない。その無邪気な姿も、はにかんだ笑顔も、キスする時の表情も、あなたのすべてを――。
しばらく、シャワーの音が聞こえていたが、急に風呂場のドアが開いて、シュンの声がした。
「鷹人! 大変だ。すぐ来て、早く」
ともだちにシェアしよう!