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第9話

(前からは、駄目だって……)  正常位ではしないようにと強く念を押したのに…… と、頭の片隅で考えるけれど、それもあやふやになっていく。  腕を縛る紐を解かれていない事だけが救いだった。  もしも、今自由にされたなら、迷うことなく彼を抱きしめてしまうだろう。口もそうだ。解放されればきっと自分は、いつか声にしてしまう。  「んっ…… ふ、んぅっ!」 「ホント…… 湊は…… 可愛い」  朦朧とした意識の中、海里が自分の名前を呼ぶ声が聞こえたような気がするが、願望からの幻聴だろうと湊はぼんやり考えた。彼からすれば、ゲイの自分が物珍しいだけであり、抱いてみたら、案外具合が良かったというだけなのだ。  不毛なのは分かっている。だから、本当に今日で終わらせる。 (だから、せめて、今日だけは……)  自分を抱く海里の姿をしっかり記憶へ刻みたいのに、激しい抽送と鋭い愉悦にいつしか堪えきれなくなり、何度目なのかも分からなくなった射精を伴わぬ絶頂の中、心で海里の名を呼びながら、湊は再び意識を遠くへ手放した。

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