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第10話

 *** 「酷い顔。どうした? 海外事業部の彼氏と喧嘩でもした? 」  久々に会う同期入社の同僚にまで言われるとは、自分自身が思っているよりも相当酷い顔色なのだろう。 「いや、アイツはもう切った」 「マジで? でも、切ったって顔じゃないな。未練たらたらって顔に書いてある」  数年前、本社勤務から北関東営業所へと配属された高林光希(たかばやしみつき)は、同期の中で一番の出世頭(しゅっせがしら)だと言われているが、どういうわけか馬が合い、彼が本社出張の時はこうして一緒に飲む仲だ。  また、入社してから間もない頃、湊をゲイだと見抜いた彼だが、その件で湊を避けることもなく色々相談に乗ってくれた。      彼の見た目は女性社員の言うところ、甘いマスクのイケメンらしい。知り合ってから女が切れた事がないから、ノーマルなのだと思っていたが、最近になって職場の男とつきあい始めたと聞いている。 「俺のことはいい。光希は、恋人と上手くいってるのか?」 「まあな。湊が色々相談に乗ってくれたお陰で、今はだいぶ落ち着いてる」 「ありがとな」と付け加えながら、頭をガシガシと撫でてくるから、「恋人が見たら誤解されるぞ」と言い返しながら微笑むと、動きをピタリと止めた光希は「それば平気だ。俺たちは信頼しあってるからね」と、のろけながら口端を上げた。 「どうせまた、気持ちも伝えないで逃げたんだろ?」 「それは…… だって、アイツには恋人もいるし、セフレでいいって言ったの俺だし、それを突然本気だなんて、ルール違反だろ」 「好きになっちゃったら、しょうがないんじゃない?」 「俺は……そんな風には考えられない」  光希の手を振り払いながら、ジョッキを手に取り答えれば、一瞬真顔になった彼だが、それ以上何も言わなかった。  それから、雑談を交わした二人が店を出たのが十一時。  いつものように泊めてと強請(ねだ)られ、最初からそのつもりではいたが、仕方ないなと応じたところで、湊の視界へと良く知っている男の姿が入り込む。

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