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第11話
「あっ」
最初に声を発したのは、湊ではなく相手だった。
「こんばんは。奇遇ですね」
固まる湊の目の前まで、手を上げながら近づいてくる。
「ホント、偶然だな」
酔いが一気に覚めていくのが、自分自身にも良くわかったが、それでも湊は平静を装い口元に笑みを浮かべて答えた。
「彼女?」
「ああ、まあ…… そんなところです」
「初めまして、こんばんは」
海里の隣で頭を下げる華奢で可愛い女性の指には、彼と揃いと思われるリングが銀色の光りを放っている。
「星川さん。そちらは?」
「ああ、コイツは…… 」
「湊のカレシの高林でーす。よろしくね!」
紹介しようとしたところで、光希が軽く言うものだから、あまりに酷いその冗談に湊は一瞬固まった。
「光希、何を…… 」
「おもしろーい。仲良しなんですね」
「うん、仲良しなの」
湊の動揺を知ってか知らずか彼女と握手を交わす光希と、完全に冗談だと思い込んでいる様子の彼女に水を差すような真似も出来ずに、湊は曖昧な笑みを浮かべ、「行くぞ」と光希の腕を掴む。
「えー、せっかくだから一緒に飲もうよ!」
「駄目だ。お前、明日、朝一で帰るんだろ?」
渋る光希を引っ張りながら、「酔っぱらいが絡んでごめんね」と、彼女に告げて去ろうとすると、
「気にしないでください」
と笑う彼女の肩の向こう側、さっきから、一言も声を発していない海里と視線がかち合った。
「行こう。星川さん、また会社で」
彼女の肩を抱きながら、こちらへと軽く会釈する彼の視線は酷く冷たい色で、湊は「じゃあな」と声を掛けるが、震えていない自信はない。
「あーあ、いいの? 行っちゃうよ」
「ったく、お前は…… 」
耳元で、囁くように告げてくる光希を睨みつけ、文句を言おうとするけれど、これが彼なりの気遣いなのだと分かっているから湊は小さく「ありがとな」と呟いた。
「彼だろ? 海外事業部の持田君」
「ああ」
「終わったって言ったけど、そんな感じじゃなかったよな。俺、すげー睨まれたし」
そんな筈は無いと答えるが、納得をする様子はない。
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