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第12話

「ま、なんにせよ、逃げてないではっきりさせる事だ。お前、たまに出会い系で遊んでるって前に言ってたけど、そういうの向いてないって自分が一番分かってるだろ?」 「もうしてないよ。今日、光希の話聞いて、俺もちゃんと大事な人見つけたいって思ったから」 「なら良かった。自棄になっておかしなこと考えちゃ駄目だぞ」  当たり前だと返しながらも、湊の頭に浮かぶのは、先ほど会った海里とその恋人の姿だった。それまでも、彼女がいるというのは理解していたが、実際目の当たりにしてしまうと思っていたよりショックが大きい。 「ホント、ありがとう」  今日、光希が傍にいてくれて本当に救われた。  そんな気持ちを込めながら、湊が小さく礼を告げると、 「優しいだろ? ()れるなよ」 と、茶化すように答えた光希は、慰めるように湊の髪の毛をやや乱暴にかき混ぜた。  頼もしく優しい友人の存在に救われて、そのうちに良いことがある筈だから、前を向いて生きようなどと考えてはみたものの……。 (俺は…… 駄目だった。淋しさに、耐えきれなかった) 「くっ…… うぅ」  自分のほうから一方的に彼との関係を絶った癖に、空虚な心を持て余し、心がそれに負けてしまった。  一夜の遊び相手を探し、一時(いっとき)でも海里のことを忘れようと考えたのが、そもそもの間違いだったのだが、悔やんでみてももう遅い。  ホテルの部屋へと放置されてから、どれくらいが経過したのかは分からない。  下腹を襲う痛みの波は、激しさを増す一方で……いっそ意識を落としてしまえば楽になれると思うのに、そうする事もできないままに、湊はとうとう嗚咽を漏らした。 「っ…… ん」  きっと助けは朝になるまでやってこない。  清掃員に発見される自分の姿を想像すると、生き恥を晒すくらいなら、死んだ方がマシなような気がしてきた。  普段は決して生を軽んじるような考えはしない湊だが、すてばちな思考に支配されてしまうのは仕方のないことだろう。 (ちゃんと、好きだと言えてたら……)  なにかが変わっていたのだろうか? 振られることでケジメをつけられ、前へと進めていたのだろうか? (いたい……くるしい……)  ガタガタと体が震えだし、体中へと脂汗が滲んでいるのが、自分自身にも良く分かる。 (も…… ダメだ)  体を丸め、愛しい男を思い浮かべた湊の耳へと、微かな物音が聞こえるけれど、それが何かを考えられる余裕はもうない。 「……星川さん?」  (つい)には良く知る男の声が聞こえたような気がしたから、幻聴まで聞こえ始めた自分に内心苦笑した。  けれど、涙で歪んだ視界の中へと人の姿が映り込み、頬を軽く打たれた瞬間、それが夢ではない事に気づき湊は瞳を大きく見開く。

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