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第20話

「やっ……あぁっ、こわい……こわれる!」 「壊れてもいいよ……ちゃんと責任取るから」  物騒な事を言いながら、密着している湊の体をほんの少しだけ引き離し、その(おとがい)を掴んだ海里は、喘ぐ湊の薄い唇を自身のそれで深く塞ぐ。 「んっ…… んぅ」  初めて交わす口づけに、歓喜するかのように湊の体がビクビク痙攣した。拙いながらも舌を絡めて応えようとする彼の姿に、海里の心は満たされて…… 先程まで、胸の大半を占めていた嗜虐心が嘘のように薄まっていく。 「ぐぅ……ふっ」  きっとまた、自分より先に登り詰めてしまったのだろう。  伸縮を強めたアナルに半ば搾り取られるように、海里もまた、何度目かすらも分からなくなった迸りを、自分の背中に爪を立て縋る湊の中へと吐き出した。  *** 「おはようございます」 「おはよう」  喫煙室へと入っていくと、細身のスーツ姿の湊が挨拶を返してくる。実は、彼とは今朝まで一緒のベッドに入って眠っていたのだが、海里が目を覚ました時には既にいなくなっていた。  挨拶をすれば返事はするが、視線を逸らした彼の頬が僅かに紅潮するのが分かる。 「星川さんとは久しぶりな気がしますが、風邪でも引いてましたか?」 「まあ、ちょっと、体調を崩してしまって」 「そうなんですよ。星川さん、酷い風邪で一週間も休んでたのに、もう煙草なんか吸ってるんですよ。持田さんからも注意してやってくださいよ」  就業時間前のこの時間、喫煙所にいるのは三人だけなのだが、以前見かけたこの女子社員と湊が二人でいたことは、あとできつく叱っておこうと考えながら海里は微笑む。 「星川さん、そんなに頻繁に吸うって感じじゃ無いですよね。いっそ禁煙してみては?」 「そうは思うんだけど、ちょっと口寂しくて」  始業前に歯を磨くと言って女性社員が退室したあと、声を掛ければ困ったように眉尻を下げこちらを見た。 「一週間、面倒をみてくれてありがとう。今朝、礼を言おうと思ってたけど、海里……良く寝てたから」 「分かってますよ」  笑みを浮かべてそう答えると、ホッとしたように息を吐く。  湊からのラインを受けて、ラブホテルへと赴いたのが先々週の金曜日。翌日には自宅へ連れ帰り、体中に残されていた裂傷や打撲の手当をした。

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