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第6話 我慢できない! でも、ダメッ

 ギシッとベッドが軋む。  暗い部屋の中に寝息が響いていた。  同じベッドに暖雅が居る。向かい合った状態で部屋の明かりを消したのだが、その体臭に全身が包まれて目まいが止まらない。バスローブを着て毛布と羽毛布団を被っているが、汗をかきそうなほど体が熱かった。  暖雅が吐いた息を吸うと思っただけで脳が蕩けそうになるし、暖雅が少し動くだけで香りが揺れる。しかも、暖雅の手は祥の腰の辺りに触れていて、時々、思い出したように動いていた。  故意なのか、寝ぼけているのか分からないが、撫でられたり、ギュッと抱かれたり、髪や耳元に口付けをされたりする。何度も何度も不意打ちのような愛撫に目が冴えるだけでなく、気持ちが昂ぶって押さえようがなかった。 「ね……寝られない!」  楔が今にも張り裂けそうなくらい固くなっていた。  ダラダラと蜜を零すのを感じ、堪らずベッドを抜け出して浴室に入った。シャワーを全開にして熱い湯に当たる。そうしながら壁に頭を当て、指を楔に絡みつかせた。 「ぁっ!」  楔はベトベトに濡れていた。  軽く指が触れただけで脳天まで快感が突き抜ける。鼻から零れる甘い息をシャワーの音で掻き消しながら、楔を両手でゆっくりと扱いた。  片方の手で鈴口を擦り、もう片方の手で根元から先端まで繰り返し扱く。蜜を吐き出す鈴口に指先を擦り付けると身を切るような快感が走った。 「ぁぁ……ぁっ……、はぁ……んっ」  楔を扱く手にベッタリと蜜が付く。その手が自然と股の後ろへ移動した。  自分の蜜でよく滑るようになった指で秘所に触れ、中を窺う。そこはトロトロに蕩けていて、細い指を簡単に受け入れた。 「ぃ、ぃぃっ……は、はる、がっ!」  ヌプリと指が入り込んだ。  熱い襞がキュッと狭まり、自分の指を強く締め上げる。これが指ではなく、暖雅の楔だったら……。そう思うと体の奥深くがジュクリと濡れた。 「はる、が……暖雅!」  熱いシャワーに打たれながらアルファの名を呼び、自慰にふける。  手を動かす度に快感が波のように押し寄せ、それに煽られた指がより強い刺激を生み出そうと激しく動いた。  秘所に埋める指をもう一本増やして内襞を押し広げ、快楽を深めるために力を込めると、体の奥からネットリとした蜜が溢れ出た。滑りがよくなった秘所を夢中で弄り、壁に頭を押し付けながら腰を揺らした。 「ぃぃっ……はるがぁ……ぁぁぁっ」  名を呼ぶと甘い香りが思い出された。  会った瞬間から鼻腔を刺激し、脳髄に染み込んだ体臭が心をかき乱す。  触れたい。  あの逞しい体に抱き締められながら、深い場所を抉るように貫かれ、骨の髄まで白濁で染め上げて欲しい。  発情期でもないのに抑えられない性欲に体中が焦げそうだった。  暖雅が欲しくて堪らない。愛されたいし、あの体を愛したい。 「はる、がぁぁぁ……」  湯の音に混じり、淫らな水音と喘ぎ声が響いた。  その時だった。 「……ったく。寝室まで聞こえてるぞ」  ガラリと浴室のドアが開けられた。 「暖雅!」  湯気で煙る浴室に筋骨隆々とした体躯が現れた。  突然のことに驚き、恥ずかしくて目を見開いたままアウアウと口を開閉する。  浴室に入ってきた暖雅は全裸。信じられないサイズの楔が鋭く天を突いていた。 「欲しいなら欲しいって正直に言えよ。ほら、やってやるから存分に喘げ」 「いや、暖雅! これは、その……違う!」  浴室にあるスツールに腰を下ろした暖雅に背後から抱かれた。  まるで幼子に用を足させるような抱き方をされた。閉じた暖雅の足に腰を下ろし、股を大きく開いた姿勢で楔に暖雅の手を迎える。 「俺に抱かれたくなったんだろう?」  耳元に暖雅の囁きが落ちてきた。  淫らさを含んだ低い声に体の奥が震える。  その通りだ。自分の腕よりも太い楔で激しく身を貫かれたい。そんな卑猥な思いを胸に、深夜、自慰に耽っていたのだ。とんだ痴態を見られてしまった。羞恥で体温が何度上がっただろう。 「でも、約束だ。セックスはしない。お前がイイと言うまでセックスはしないから」  意地の悪い囁きに身悶えした。  両手を差し上げ、暖雅の首に巻き付ける。  今すぐここで「抱いて!」と言いたかった。その言葉が喉元まで競り上がって来ていた。だが、それはダメだ。暖雅が廃人になってしまう。 「セックス、は……ダ、メ!」 「この状況でも言うか? まぁ、いい。祥から求めて来るまで、俺は待つよ。祥が、祥のタイミングで言ってくれ」  悪魔のように優しい言葉が鼓膜に貼り付く。  それに甘えるように首に縋り付き、涙を零しながら言った。 「セックスは、だめ……でも、……イかせて……お願い」 「随分と身勝手なお願いだな。でもセンセイのご要望だ。祥は俺の雇い主だからな」  暖雅の右手の指が秘所に触れた。そして、ユルユルと入口を撫でた後、ジリジリと中へ入り込んでくる。 「ぁ、ぁぁぁっ、ぁぁん」  自分の指とは比べものにならないくらい太く無骨な指だった。  それがうねり、肉を突き、蜜に濡れた内壁を押し広げるように蠢く。浅い場所を引っ掻いているかと思えば、ズブッと奥深くまで入り込む。腹側の柔らかな襞を強く押されると腰が跳ねるほどの快感に苛まれた。 「ココが好きか?」 「ぁっ! い、ぃぃっ!」 「昼間はエリートメガネ美人なのに、メガネを外すと本当にエロいな」 「ぁはっ! そ、こっ!」 「ココだな。あぁ、いいぞ。存分に感じろ」  喘ぎ声に合わせて暖雅の指の動きが激しくなる。  腹側の肉壁を激しく突かれるのがいい。リズミカルに動く指によって真っすぐ絶頂へ導かれていく。そしてそれを助長するように楔を扱かれ、祥は怒濤の勢いで押し寄せてくる悦楽に背を反らせた。 「ぁぁっ! ぁはっ! ぁぁぁっぁっ!」  股を閉じようと足を痙攣させるが、鍛えられた筋肉に覆われた暖雅の足はピクリとも動かない。暖雅の足を挟む祥の足がビクビクと震えた。  暖雅の手を祥の白濁が汚す。シャワーの湯がそれを流し去り、排水溝へ白い糸が流れていく。 「すっげぇ締め付け……俺の指をへし折りそうなくらい強い力で締め上げながら、襞が絡みついてくる……めっちゃエロいぞ」  浮ついた声で自分の状態を説明されると恥ずかしい。  痴態の一部始終を見ていた暖雅は、祥の中に猛々しい楔を突き入れた時のことを想像しているのかもしれない。祥も指を受け入れながら雄の証を咥え込んだときの悦楽を妄想して喘いだ。 「なぁ、祥……俺の首に抱きついていてくれないか?」 「?」 「お前を感じながらイきてぇんだ」  暖雅が照れ臭そうに言いいながら、向かい合って抱き合う姿勢を求めてきた。  それに従い、暖雅の腹を跨いで胸にしがみつく。目の前に暖雅の胸の突起があった。それが固く尖っている。欲情している証拠だ。 「そう……俺に抱きついていてくれ」  暖雅の声が欲に染まっていた。  胸に抱きつくと祥の尻の下で暖雅は自分の楔を扱き始めた。 「……」  暖雅は無言だった。浅い呼吸を繰り返しながら自慰を続けた。  少しずつ息が荒くなっていくのを聞きながら唇をすぼめて目の前の胸の突起に吸い付いてみた。チュクチュクと唾液の音を立てながら暖雅の胸に愛撫する。すると暖雅がビクッと震えた。 「おいおい、煽るなよ。すぐにイっちまいそうだ」 「イけばいい……お前の声が聞きたい」 「声?」 「お前の欲情した声が聞きたい……」 「ったく……困った先生だ」  声が聞きたいと言いながら、赤子が乳をせがむように暖雅の胸の突起を啜り舐め続けた。  猫が手足を毛繕いするように舌の腹で突起を繰り返し舐め、すぼめた唇で吸い、時折甘噛みして刺激を与える。左の突起を愛撫した後、右の突起に移動する。執拗に愛撫を続けていると暖雅が低く唸るような呻き声を漏らした。 「っ……あぁ……」  ゴクッと唾液を飲む音も聞こえる。  太く尖った喉仏が揺れ動いていた。  背伸びして暖雅の首にも唇を這わせるとギュッと強く抱きついた。  自分の尻の下で暖雅が自慰をしている。その手の激しい動きが尻に伝わってくる。頭の上では熱く重い吐息が短い間隔で零れ出ていた。  大男が自分を抱き締め、オメガと体を繋ぐ様を妄想しながら自慰をする。なんとも卑猥で淫猥な状況がおかしかった。 「ぅ、くっ……ぁ、ぁぁ!」  ビクビクッと逞しい体が波打った。スツールをガタガタッと揺らしながら、暖雅が腰を跳ねさせた。腰を素早く数回揺らした後、深い呻き声と共に熱い息をフゥッと長く吐いた。 「……妄想の中の私はどうだった?」  フフッと笑いながら尋ねると、暖雅がげんなりとした表情になった。その表情をよりよく見ようと背筋を伸ばす。お互いの顔が近付いた所で暖雅が苦笑した。 「我を忘れそうなくらい良かった……」 「そうか……」  祥が面白がるように笑うと、暖雅の手が動いた。シャワーに翳して汚れを落とすと、祥の後頭部を押さえてくる。 「今、俺がどれくらい必死に耐えているか分かるか?」 「……筋肉が震えてる」 「あぁ……。祥をうつ伏せに倒してうなじに噛みつき、その細い腰を両手で掴んで思う存分、俺を突き入れたい。そんな騒動を必死になって抑えているんだぞ」  雄の欲が絡みついた刃のような低い声だった。  その状態を想像すると全身の毛が逆立つような恐怖と劣情を感じる。だが、暖雅の首に両腕を回して言った。 「絶対、ダメだ。アルファのお前が私を抱いたら……お前も私も、お前を知る誰もが激しい後悔と怒りに満ちた人生を送ることになる」  絶対的な拒絶の言葉を向けてから暖雅の首筋にチュッと口付けした。  ゆっくりと立ち上がると熱い湯をザッと体に当ててから脱衣所へ出る。バスタオルで全身を拭くと、髪を軽く拭いただけでベッドへ戻った。 「……何だよ、ソレ……」  シャワーに打たれながら呟かれた暖雅の言葉は祥の耳に届かなかった。  微妙な空気が二人を繋ぐ。  暖雅はしばらくベッドに戻ってこなかった。

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