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第10話 最愛の廃人

 彫りが深く、日本人離れした端正な顔が目の前に近付いてくる。  メガネを外され、ぼやけた視界の先で暖雅が唇を求めていた。  全裸でソファに押し倒され、頬を掴まれてキスを強要される。  柔らかな唇が重なった瞬間、熱くぬめる舌が歯列を割って入り込んできた。口腔内をネットリと舐められ、上顎や舌裏を繰り返し舌先でなぞられる。お互いの唾液が混じり合って祥の口から溢れた。 「ん――、んんっ」  角度を変えながら何度も重ねられる唇の感触と、逞しい肉体が覆い被さってくる気配だけで楔から蜜がダラダラと溢れる。  秘所の中がジュクジュクと濡れ、勝手に疼いた。  まだ情事が始まったばかりだというのに、体は暖雅を求めて先走りの涙を零しフェロモンを絶え間なく放ち続けていた。 「暖雅……はな、れ、てぇ……」 「嫌だ。離れない。もう、絶対に離れねぇ。かわいい祥、俺の祥! めちゃくちゃ奇麗でいつも以上に肌触りがいい。……俺、もう頭と体が変になってる」  上擦った声で話す暖雅が牙を見せながら首に向かって寄ってくる。  まず舌先が青い静脈の上をなぞり、続けて唇が貼り付いた。  チュクッ、チュ、と痕を刻みながら移動し、桜の花びらのような痣を執拗に舐めた。  時々、牙が肌に触れる。そのたびに体が震え、ゾクゾクと這い上がる快感が脳を打つ。 「この痣……子どもの俺を救ってくれた痣だ」 「え……?」 「……覚えてないんだな。……俺と祥は同級生だぞ?」  急な暖雅の言葉に驚いて視線を合わせようとした。  暖雅は痣に唇を押し当て、首筋を牙でなぞり続けている。 「俺の腹には枯れ木のような痣がある。小学生の時、俺は痣が大嫌いだった。体育の授業で着替えるたびに意地の悪い同級生にからかわれたからな。変な痣がある奴。病気だって」 「……」 「俺はこの痣をなんとかして消したかった。ナイフで抉ろうとしたこともあった。でも同じクラスのお前の首にも痣があったんだ」 「首の、痣?」 「お前の首の痣はまるで花びらみてぇでさ。俺の枯れ木のような痣と、お前の首の痣を合わせたら……誰もが愛で慕う桜みてぇだって思った。一緒になれるって勝手に思ってたんだ。お前がいたから俺は学校に通えた」  暖雅の言葉に古い記憶がよみがえる。  そう。  小学校1~2年生の時、よく声をかけてくれる同級生がいた。  グループ学習をする時、内気で物静かな祥は誰とも組めなかった。そんな祥を見た少年は友人に上手く話を付けて祥と組んでくれた。  2人組で音読発表会をする時も、給食当番も一緒だったし、風邪で休んだときに手紙やプリントを持って来てくれたのも、その少年だ。 「もしかして……あの時の……」 「覚えてるか? 『いつか一緒に花見に行こうぜ』って約束したのを。体育の授業が終わって着替えながら痣を見せ合って花見の約束をした。でも、祥は転校した。小2の2学期の終業式の日を最後に、俺の前から居なくなったんだ」  暖雅はそういうと、手を握りしめてきた。  手が逞しい腹に導かれていく。  固い腹筋に覆われた腹に触れながら、祥は視線をそちらに向けた。暖雅の腹には、太い幹から細長い枝を何本も伸ばす枯れ木のような痣があった。どうして今まで気付かなかったのだろう。その痣を祥は知っていた。 「お前のおかげで俺はコンプレックスだったこの痣を好きになれた。お前と一緒なら、俺は皆に慕われる桜になれる気がしていた。でも、お前が居なくなって……枯れ木だけになったのが辛かった。でも……また会えるなんて……。二度と会えないと思ってたのに会えた。だから、もう、絶対に離れねぇ」 「暖雅……」  記憶が鮮明になるに従い、暖雅の腹から手を放せなくなった。  内気で、人付き合いが下手で友達を作れなかった祥に、暖雅は自然な雰囲気で近付いてきて寄り添ってくれた。  なにかメリットがある訳でもないのに、いつも一緒に居てくれた。そのおかげでいじめられることもなかったし、先生を困らせることもなく、面談で親が注意されることもなかった。  あの頃の暖雅も器用だった。  工作の時間も、理科の時間も手早く課題をクリアしていた。子どもの暖雅の顔は全く覚えていないが、羨ましく思った器用さは記憶に残っていた。 「……やく、そく……」 「思い出してくれたか? ……小学生の時はまだ、アルファとかオメガとか何も分かっちゃいなかった。でも……あの頃から俺はお前が好きだった」  甘い告白に頬が熱くなった。  暖雅が再び唇を重ねてくる。  唇が重なった瞬間、痺れるような快感が脳天まで突き抜けた。 「もう、離さない……俺の祥、俺の……オメガ!」  獰猛な獣が唸るような声で暖雅が言う。  その言葉に酔った。このままずっと体を繋げ合って深い愛に溺れられたら幸せだ。首を差し出し、命を預けてしまいたい衝動が抑えられなかった。 「暖雅ぁ……」  口付けの合間にすがるような声で名を呼ぶ。  暖雅が応えるように両手で全身を撫でてきた。  暖雅の唇が顎に触れ、首筋を滑り、鎖骨で止まる。  骨をなぞるように口付けを繰り返した後、胸の突起に吸い付いた。  舌先で突起を捏ねられると体中に耐えがたい快感が走る。舌と指で両方の胸を攻められ、甘く淫らな息を吐きながら喘いだ。 「ぁぁんっ……ぁっ、はぁぁ……」 「一緒に、花見に行こう。誰も居ない俺達だけの花見の場所を見付けて……。俺が作った弁当と酒を持って行こう。夜桜を見ながら……甘い時間を過ごそう。……その声を間近で聞きたい。舞い散る桜の下でお前を抱きたい。……その声を……もっと、もっと聞かせて」  暖雅の片手が胸から腹へ滑り落ち、祥の薄い茂みをまさぐった。そして楔に絡みつくかと思いきや、あえてそこを避けて進んだ。 「ひぅっ! ……んんんっ」  突如、秘所に訪れた刺激に腰が跳ねた。  閉じた秘所に暖雅の指がねじ込まれ、グッと中を掻き回されたのだ。 「ここに俺を入れたい。祥、この俺を受け入れてくれるか?」 「ぁ、ぁぅっ……ぅぅん」  暖雅の指が浅い位置を掻き回す。  ビクビクと体が跳ね上がるほどの快感に、祥は両足に力を込めて腰を上下させた。  もっと深くまで突き入れて欲しい。  指とは全く違う質量のモノで貫き、責めて欲しい。  暖雅の指先がある一点を付くと周囲の音が消える。視界が真っ白に光って身が痙攣した。強すぎる快感に祥は声を失い、悶えた。 「ココか……胸を噛みながらココを擦ると……」 「ゃっ! ぁっ、はっ! ……! っ!」 「中が絞まって奥から蜜が溢れてくる。……いい反応だ」  欲に染まった暖雅の声で耳まで犯されているような感覚に陥っていく。  胸と秘所を同時に責められ、強すぎる快感で意識が蕩けた。耐えきれない快感を逃がしたいのに、暖雅の力に抗えず、嬲られるがままになる。 「ぁぁ、ぁっ……ぁぁぁっ!」  蠢く指に攻め立てられて絶頂に押し上げられた。  純白の欲の証が迸る。  楔に一切触れられていないのに登り詰めた祥は、まだ秘所を弄る暖雅の指に抗議するように腰を揺らした。  暖雅は指を2本に増えた。  柔らかく蕩けきったそこは容易に指を受け入れ、喜ぶように濡れて熱を増す。 「熱くて柔らかくてトロトロと蜜が溢れてくるのに、時々ギュッと指を締め付けてくる……ココに、俺を入れるぞ」  暖雅の言葉に曖昧に頷いた。  このまま体を繋げ合うのは危険だ。  でも、セックスを止めるという考えは浮かばなかった。  発情中のオメガの脳は抑制が効かない。とにかくアルファを求め続けるのだ。  全身から溢れるフェロモンが相手を狂わせ、終わりのないセックス地獄へ引きずり落としていく。もちろん、祥自身も自制など効く訳もなく、共に堕ちていく。 「……待てねぇ。もっと蕩けさせてからと思ったが……もう待てねぇ」  暖雅が呻いた。 「大丈夫だから……」  祥は鼻から息を逃がしながら甘い声で言った。性欲が止まらない。 「大丈夫だから……いれろ……早く……暖雅が、欲しいっ!」 「ありがとう、祥……」  暖雅に足を掴まれた。  天に向かって両足を差し上げて秘所を曝け出す。腰を浮かせた姿勢で暖雅の猛々しい楔を待った。クパァ、と淫らに開き、透明な蜜を溢れさせる秘所は悦楽の坩堝だ。  2本の指で解かれたそこに、鋼の楔が押し当てられた。  溢れた先走りでヌラヌラと光って見える楔の先端が桜色の秘所に触れた。  暖雅の手が楔の角度を調整する。  ほどなく、お互いが長く待ち望んだ瞬間が訪れた。 「はぁっ、ぁぁ、ぁぁぁっ!」  秘所の入口が楔の形に歪み広がる。自分の腕より太い楔が入ってくる。  肉壁を押し広げ、ズグズグと擦り上げてくるのが堪らなく快感だ。  初めて見た時は恐れさえ感じた剛杭が体の中に入り込んでくる。そう思うだけで腹の奥が濡れ、耐えがたい快感に神経が震えた。  最も太い部分がグニュッと音を立てて埋まる。  暖雅が腰を揺らすたびジュプッという卑猥な音がして蜜が溢れた。 「はる、がぁぁ……あぁぁっ! はぁ、ぁ!」  仰け反って悶える祥をよそに、暖雅は腰を進め、楔を根元まで埋没させた。  指ではありえないくらい深い場所まで埋まっていた。暖雅がニヤッと笑った。祥の腹をトントンと叩きながら舌なめずりした。 「ココまで入ってる……俺に吸い付いて離れず、締め上げてくるお前は最高だ」 「コ、ココ?」 「あぁ。分かるだろう?」  手でグッと圧迫された。中から楔で押され、外から手で撫でられ、押しつぶされそうな快感で秘所が濡れた。  真紅に濡れて光る目を見ながら喉を鳴らし、秘所を絞める。絞めれば絞めるほどお互いが擦れ合って気持ちが良い。誰にも犯されたことのない深みまで支配される喜びに胸が打ち震えた。 「さぁ、動くぞ……」  淫らな宣告だった。  暖雅が腰をグッと前へ進める。  その圧に負けた蜜が泡立ちながら溢れ出た。体の奥を刺激される喜びに溺れ、さらに股を開いて腰を浮かせた。自ら求めるように腰を揺らすと、さらに深い場所に暖雅が届く。体の奥深くにある蜜園の入口に暖雅の先端が押し当てられ、その周辺を繰り返し刺激されると腰が砕けるような快感が起こった。 「はぁぁぁぁっ――!」  こんなセックスは始めてだ。  徐々に速くなる暖雅の動きに合わせて強烈な悦楽の波が起こった。最奥を突き上げられ、長いストロークで坩堝を擦られ、錯乱したように喘ぎながら泣きじゃくるしかなかった。  体が震え、楔が白濁を吹き上げる。  だが、祥が精を吐き出しても暖雅の攻めは止まらない。  ほぼ完全に引き抜いた直後に根元まで突き入れるという長い動きが繰り返され、濡れそぼった肉輪を擦られ、深みを突かれ続けた。  発情した体は乱暴な愛に喜び、欲を放ったばかりの楔がすぐに起ち上がる。  ソファをグッショリと濡らすほど蜜を秘所から溢れさせながら、何度も白濁も吐いた。  前から後ろから、枯れることの無い泉のように愛蜜を溢れさせながら祥は絶頂に昇り続けた。 「ぁぁん! ぁぁぁぁ――! っ!」  絶頂に至った後も消えない悦楽に気が狂いそうだ。  部屋中に匂いが蔓延するほど精を放ち、周囲を憚らない嬌声をあげる。  硬く太い暖雅の楔が強さを失うことはなく、ドクドクと脈打ちながら出入りを続ける。  やがて、その脈動が激しくなった。  その瞬間が来る!  そう悟った祥は強すぎる期待で気を失いそうになりながら身を震わせた。 「一回……中に出すぞ……」  暖雅が呻いた。  全身が跳ね上がる勢いで楔が根元まで突き入れられる。  体の奥深くで暖雅の楔が脈打った。  それと同時、秘所の肉輪が異様に広がった。ズグズグとなにかが内側にめり込んでくる。その感覚に祥の体が強ばった。  アルファは性器の根元に独特の瘤を持っている。  瘤は接合相手の中に入り込んで栓の役割を果たす。  確実に種を植え付けるために、放った欲の証が溢れ出ないようにするためだ。   次の瞬間――。 「うぅ……ぁぁぁ……」  暖雅が劣情に染まった声を零した。  灼熱の波が激しいうねりを伴って腹の奥へ押し寄せる。  暖雅が達した瞬間、これまで感じたことが無い安堵と幸福感が祥の全身に広がった。暖雅を受け止めたことが人生最高の幸せであるかのように思える。 「はるがぁ……」  舌っ足らずな調子で名を呼ぶと、額に汗を浮かべた暖雅がニッと笑った。 「ごめん……セックスしちまった……」 「……いい……凄く、幸せ……」 「そうか……」  暖雅は雄の表情の中に優しい笑みを交え、腕を揺らした。  屈強な手が細い楔に絡み付く。  口角を吊り上げる笑みを浮かべながら暖雅が言った。 「祥が俺を受け入れてくれから……俺も祥を受け入れたい。祥のを俺にくれ……」  何度も白濁を吐き出したというのに、楔は暖雅の手の中で育ち、浅ましく反り返って喜びの涙を零した。そして絶頂に向かって疼きだす。 「ぁっ……、だ、めぇっ」  暖雅の言葉の意味を察した途端、激しい焦りが胸に満ちた。  白濁を暖雅の手に吐き出してはいけない。  暖雅はそれを口にするつもりなのだ。お互い、欲の証を身に治め合って愛を確認しようとしている。  でも、それをやると暖雅が人でなくなってしまう。 「だめ……、だめぇぇぇぇ」  拒絶の声を上げるのに、楔は暖雅の手淫に喜び震える。  白濁を放つ瞬間を期待して快感に悶え、ドクッと脈打った。 「ひっ……ぁぁぁぁっ……」  弱々しい拒絶の言葉が喜びの声に聞こえたのか。  暖雅は手淫を続け、ゆるゆると腰を揺らしてくる。  繋がったまま離れない結合部の卑猥な音に羞恥心が掻き立てられ、快感が増し、絶頂へ追い詰められていく。 「だ、めぇ……!」  必死になって衝動に耐えようとした。  秘所と楔から広がる快感は足に向かって広がり、ビクビクと神経を痙攣させ、腹の奥や背筋に走る悦楽が重力に逆らって脳へ広がっていく。  体の奥深くにある肉の壁をグッと押し上げられた瞬間、ソファの上で両手を強く握り締め、暖雅の楔を締め上げながら悦楽の頂へ登り詰めてしまった。 「ひっ、ぁぁぁっ、ぁ、ぁぁ――」  意識が弾けた後の余韻が長い。  脳の神経が焼き切れそうだった。  光も音も分からない状態のまま、ビクンビクンと腰を跳ねさせて祥は少ない欲を放った。  暖雅の手を汚した白濁は少なかった。もう、体の中のどこをどう絞っても出ない。 「あふ……、ぅっふ、んん……」  快感の余韻に浸りながら顔をあげた。  視界の先、ぼやけた暖雅が近付いてくる。  徐々に鮮明になる暖雅。  やがて、暖雅が口元に白く汚れた手を宛がっているのが見えた。 「祥の中を突き上げながら愛撫できればいいのに……祥の中に放ちながら、俺も祥を飲み干したい」  卑猥な言葉を吐きながら暖雅が祥の白濁を口に含んだ。  無骨な指が唇の中へ入り、赤い舌で白濁を舐め取る。  鋭く尖った喉仏が上下して、唾液と共に祥の愛液が暖雅の腹へ落ちていくのがスローモーションのように見えた。 「ダメ……ダメ、ダメダメェ!」  涙を零しながら祥は叫んだ。  重たい体を引き摺るようにして起こし、太い腕を掴んで更に舐めようとするのを止める。 「ダメだ! 吐き出せ! 私の……私のを口にするな!」 「しょ、う……?」 「私の……私のを口にすると……アルファは……アルファは!」  祥は暖雅の首に縋り付き、最も嫌いな言葉を口にした。 「アルファは……廃人になるんだ!」  暖雅の体から力が抜けるのを感じた。  自分の体の中に入り込んでいた楔が力を失う。 「暖雅……暖雅!」  暖雅はソファに背中を預けてゆったりと寛ぐような姿勢になった。  真紅の目は焦点が合っていなかった。  何を言っても応えず、動かない廃人がそこに居た。 「暖雅!」  返事はない。  暖雅は優しい笑みを浮かべた顔のまま、ピクリとも動かなかった。

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