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第13話 バ レ た !

「祥様!」  焦りを隠さない従路の声が聞こえた。  遠くで聞こえるそれに返事をしないまま全身を駆け抜ける悦楽に溺れる。  陶酔の表情で腕の力を抜いた。  しかし、暖雅の顔が離れない。それどころか、牙はより深く食い込んでくる。首を噛みちぎらんとするほどだ。 「はる、が?」  命の危機を感じながら背後の暖雅に声をかけた。  暖雅の口から血が溢れ、バタバタとソファや床に落ちる。  あまりの量に動揺しながら暖雅の足に触れた。  すると――、暖雅の足が動いた。 「暖雅!」 「あっ……。あ、あの……悪ぃ……祥。まだ、噛むつもりはなかったのに……」  低い暖雅の声が聞こえ、うなじを噛む力が消えた。 「暖雅! どうして!」  慌てて振り返ると紅の光を放つ目が見えた。暖雅は激しい興奮状態にあった。  口元が鮮血で染まっている。血に濡れた舌で唇を舐め回し、あぁぁ、と卑猥な息を吐いていた。 「祥……お前が欲しい!」 「え? いや、ちょっと!」  待て、と言っても我を忘れたアルファがオメガの制止を聞くわけがない。  簡単にうつ伏せにされ、四つん這いの姿勢を取らされた。足の付け根に熱く固いモノが当たる。 「祥……行くぞ」 「いや! いやいやいや! ちょっと待て! 待てって! おい、待て!」 「いやだ……待てない」  獰猛な獣の声で言った暖雅が楔を打ち込んできた。  全く準備できていない秘所が悲鳴を上げながら紅の涙を零す。それでも暖雅は止まらなかった。 「ひぃぃっ!」  背中を反らせて苦鳴を挙げると、その声にあおられたように暖雅が腰を踊らせた。 「ぁぁっ! は、あぁぁぁっ、ぁぁっ……!」  真後ろからの衝撃に高く鳴いてしまう。  最初は酷く痛かったのに、衝撃はすぐに快感へ変貌した。  体は激しく体の最奥を抉られる快感を覚えていた。それを思い出し、全身が劣情に染まって悶えうねった。 「祥、祥!」  切羽詰まった声で暖雅が名を呼ぶ。  獣が体を繋げる姿勢、しかも両足首を掴まれてガツガツと抉られ訳が分からず啜り泣いた。  痛いのか気持ちいいのか分からない。  ただ、腰が勝手に跳ね、楔が狂ったように白濁を吐き続ける。嬌声を止めることもできず、絶頂へ繰り返し押し上げられていた。  頂から降りられず長くイき続ける苦しい状況で腹の奥が熱くなるのを感じた。  悦楽地獄――。  そんな言葉がぴったりだった。  むせび泣いて全身を支配する快感に悶えながら、体の奥深くにある蜜園が暖雅の雄の種で満たされるのを感じる。  濡れた柔らかな肉襞が白く染まっていく様子が脳裏に浮かんだ。 「祥……あぁぁ……俺の、祥……」  長く欲を放ち続けた暖雅が呻いた。  腰がガクッガクッと揺れていた。  それが治まるのを待ち、ゆっくりと息を整えてから肩越しに暖雅を見た。 「暖雅……どうして?」 「あ? なにが?」  紅の目のまま暖雅は首を傾げた。じっとその目を見つめるが、暖雅には状況が分かっていないようだ。 「龍福暖雅様、お加減はいかがでしょうか?」  唐突に従路が割って入ってきた。  暖雅が体をビクッと震わせる。 「う! えぇぇぇぇ! お、おいおい! 誰?」 「執事の従路だ」 「し、執事? あ、あぁ、その、体は……全く問題無い」  暖雅は照れ臭そうに笑って答えるものの、繋げた体を離そうとしない。 「今日は1月8日です。龍福様のご記憶はどこまでありますか?」 「なに? 8日?」  暖雅は素っ頓狂な声をあげて目を瞬いた。 「いや、だって……祥と初詣に行って、帰ってきて、一緒に寝て……起きて朝飯作ったら、急患が来て……それで?」  暖雅が記憶を辿りながら話している間にそっとソファから降りようとした。  しかし背後からガシッと抱き締められる。  体を繋げたまま、暖雅の腹の上に乗る姿勢で再び腹の奥を突かれた。 「ァッ! ちょっと……!」 「急に発情した祥に当てられて、つい抱いちまって……すまねぇ。セックスだけじゃなく、うなじまで噛んじまった。ダメだな。情けねぇアルファだ。自分の性欲もコントロールできねぇなんて。って、今日が8日だって? 俺、一週間以上ヤッてた?」 「そんな訳があるか!」  すかさず突っ込みを入れる。  そして、ゆっくりと言葉を選びながら事実を話した。 「……廃人? 俺が? 祥の……その、アレを口にして廃人になった?」  驚くのも仕方がない。  だが、廃人になったのは事実で、元旦から8日である今日まで暖雅は廃人だった。 「そうだったのかぁ。廃人ねぇ……。いや、でも、どうして戻った?」 「それが……不思議なんだ。責任を取るって言っていいのか分からないが、暖雅の牙にうなじを押し当てて噛まれた状況を作ったら……正気に戻った」 「ほぉ……」  感心したような声を漏らした後、暖雅が黙った。  黙っているが、下半身は元気だ。  体の中で楔はドクドクと脈打って肉壁を刺激し続けている。 「オメガが持つ一種の防衛本能かもな」 「防衛、本能……?」 「オメガは力じゃアルファに勝てねぇだろ? 強引に体を奪われることも珍しくねぇ。だから『うなじを捧げてもいい』と本気で思えるアルファ以外には、体液が毒になるとか? 心から『結ばれたい』と思った相手に自らの意志でうなじを捧げると大丈夫ってな感じ? 全てのオメガが持ってる訳じゃないだろうが。ほら、ベータの中に超能力と言われる力を持つ者がいるのと同じかな?」 「……」  暖雅の推理は合っているかもしれない。本当の所は分からないが、それなら筋が通るように思う。 「本当に、大丈夫か?」  しつこく尋ねると、暖雅はニカッと笑った。 「大丈夫かどうか、もう一回試すか? まだまだ元気だ」 「いや、そうじゃなくて!」  従路の前だというのに、暖雅は容赦なかった。  小刻みに腰を揺らしてからズンッ突き上げてくる。さらに祥の楔を手で扱き、先端を強く素早く擦り始めた。 「んぁぁぁぁっ!」  祥が背を反らせて切ない声をあげると、従路が一礼してそっと立ち去っていった。気が利く執事だ。  従路が静かに玄関へ向かう間、祥は嬌声を上げて淫らに腰を揺らしていた。もう遠慮が要らないと思うと、情欲に歯止めがかからない。  が――。  ガンッ! と何かを破壊する音が響いた。  続いて玄関の方が喧噪に包まれた。 「あ、あなたたちは!」  従路がうろたえる声がする。  それを掻き消すようなバタバタという激しい足音がした。 「あ?」  暖雅が動きを止めた時、10人以上の男達がリビングへ乗り込んできた。しかも、全員、土足。スーツ姿の男達だった。 「あぁ?」 「は?」  暖雅の怒りを孕んだ声と、乗り込んできた男の声が重なった。その後、短い沈黙が場を繋いだ。 「どういうことだ? 祥!」 「ハル!」  乗り込んできた男のうちの2人の声が重なった。 「うそ……」  頭を抱える状況になった。  というのも、乗り込んできた黒スーツ集団は祥の父と暖雅の父、そしてそれぞれの側近達だったのだ。 「こ、これは……」  場がシンと静まりかえった。あまりに恥ずかしすぎて言葉が出て来なかった。  暖雅の父・ラルフは、日本に居る大切な跡取り息子と連絡が取れず、消息が掴めないということで急遽、来日。部下達に暖雅を探させたのだ。  一方、祥の父・啓司は、暖雅の失踪に自分の息子が関わっているかもしれないと知り、この件が日本とドイツをはじめとするEUとの経済的な交渉に問題を生じさせかねない、と肝を冷やして帰国したのだ。  祥の父はいわゆるコーディネーターのような役割を担っている。  イギリスがEUを脱退した後の経済交流を念頭に、ドイツをはじめとするEU加盟国の重鎮と日本の経済界の代表を繋ぐ役割を担っていた。  貿易や会社の移転・設立などについて交渉をする場で両者を繋いでいるのだ。  今、複数の交渉が大詰めを迎えている。ここでトラブルを起こすなんてもってのほかだ。  それが、どうだ。  息子と親友の息子は一糸纏わぬ姿で体を繋げ、愛し合っている最中ではないか。 「よぉ、親父」 「ハル!」 「なんだよ、ゾロゾロ大勢引き連れて来て。ちょっと嫁探ししてただけだ。いい嫁見付けたけど嫁が発情期で……離れられなくて出勤してなかっただけだ。それをこんなにゾロゾロと引き連れてわざわざ日本まで来るとは。暇人かよ」  ハハハ、と軽く笑うと暖雅はこれ見よがしに祥の体を突き上げた。 「んぁぁぁっ!」  祥の体からオメガのフェロモンが放たれた。  男達の中の数名が後ろへさがった。  側近の中にアルファが居るらしい。  健全なアルファにとって発情期のオメガのフェロモンは悪魔の誘惑だ。 「美人だろ? 親父が外交官というイイ家のオメガだ。普段は獣医師。薬の知識も、指先の器用さも、動物に対する優しさも右に出る者はいねぇぞ」 「ハル……お前は、そのオメガ……ケイジの息子を?」 「あぁ」 「オ、オメガを娶って……本社の社長として身を固めると?」 「……いや、ドイツの本社をどうとか、子ども作って継がせるとか、そういう話は、また別」  暖雅の言葉に、ラルフは焦りを隠すようにコホンコホンと何度も咳払いした。  祥の父も動揺を隠せない様子だ。 「とりあえず、もっかいヤったら服着て事情を説明する。とりあえず……外へ出てくれねぇかな? いや、セックス見てぇならそこに居ていいけど。俺の嫁を見たいか?」 「!」  暖雅が祥の肢体を見せ付けるようにしながら腰を跳ねさせた。  祥も肩まである黒髪を乱しながら、周囲を憚らない艶めかしい声をあげる。 「いやいや、それは、その……」  祥の父が絶句したまま外へ出て行く。  それに暖雅の父が続き、側近達も部屋を後にした。  何人かが口惜しそうな表情で何度も振り返っていたが、別の男がそいつの頭を小突く。  そんな黒スーツ集団を見送った二人は、再び絶頂を目指して激しく体を絡ませたのだった。

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