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第11話 Kaleidoscope

 クラブ・ニュー椿が閉店するのは大体午前3時過ぎだ。 その日はホスト達も、支配人も連れ立ってサウナに行くと行って揃って出かけていった。 「カオルさんも一緒に行ってよかったのに。」 フロアに掃除機をかけながら雄介が話しかけた。 背中に「絵が描いてある」雄介はサウナ入店お断りの対象なので、こういう場合は掃除にかこつけてさりげなく輪から外れているのを瀬島は知っているから、よほどの付きあいでもない限りはついて行かない。 「いいさ。雄介と二人でこうしている時間が大事だから。」 「ごめんね。俺の背中のせいでプールにも海にも行けないじゃん。」 「気にするな。ガングロになったらマダムのウケが悪いから丁度良いんだ。」 日焼けサロンで浅黒い肌にしているホストが多い中で色白の瀬島は「エリート」のイメージで売っているのでこれで良いのだと言う。 「何か手伝おうか?」 「じゃあゴミを出してくるからテーブル拭いてもらおうかな。」 と大きな袋を手に店を出ていった。戻ってくると次から次へとめまぐるしく働いている。 手持ち無沙汰なのでソファに腰かけてその様子を見ているとあらかた終えたのか待っている瀬島に気兼ねしたのか手を拭きながら傍に来て腰掛けた。 「やっぱ、絵になるよね。そこに座っているの。」 「ここのテーブルが好きなんだ。ふと顔を上げると、オマエがカウンタでシェーカーを振っているのが見えるから。」 儀式のような流れる動き。 さくさくとリキュールを配合してパフッと蓋をすると何に納得するのか小さく「うん」と肯いて、そうしてキュッと唇を引き結んでシェーカーを振る。 小気味良いリズムが店に流れる。 「俺ね、たまに目が合っちゃうでしょ?もぅ、飛びついてチューしたくなる時があるんだよね。」 言い終えた時には既に首にかじりつくようにしていた。 「ねぇ、マダムを口説く時みたいに、俺を口説いてよ。」 「だめだ。」 「どうして?」 「口説く前にしたくなっちゃうから。」 納得させるようにバードキスを繰り返していたが、そのままソファに押し倒してしまった。 「やっぱ、マジで欲しくなった。」 「うわっ、カオルさん大胆。」 最初はふざけていたが、上から優しい瞳で見つめられると、雄介はそれだけで身体の奥が熱くなってきていた。 「んもぅ・・・。」 そっと目を閉じると見つめられていることを必要以上に意識してしまって息が荒くなってしまう。重ねられた唇は既に熱を持っていて、絡みつく舌がその熱を余すところ無く伝えてくる。 黒いボウタイをするっと外して白いシャツのボタンを一つ一つ、もどかしくでも落ち着いた手付きで外していくと胸元が息遣いと興奮とで上下しているのが露になる。手をそっと滑らすように割りこませ、胸の突起をそっとつまむとすぐに反応して固くなり始めた。 「あっ・・・ああん。」 「もぅ勃っているの?エッチだな、雄介の身体。」 腹筋を這うようにして話しかけるので息がかかってよけいにゾクゾクしてしまう。腹筋から形よく凹んだ臍の周りを舌でゆっくりいたぶると背中をそらせ、吐息が洩れる。 「あん・・・あふっ・・・ううん・・・。」 その甘い声が更に瀬島を煽ってしまい、自分の雄も力を持ってしまう。 「すげぇ、勃っているぞ。キツそうだな。」 黒いパンツのフライを指でつっとなぞるとさっきからそれを待っていたかのようにビクビクとうごめいている。 「ひどい・・・イジワル・・・。」 「こんなエッチな身体見て抱きたくならないヤツなんていないだろう。」 「そんな…。」 その瞳と指で愛撫されて欲しくならない人なんていないよ、と言い返したくても声は途切れ途切れになってしまう。この後自分を高みまで押し上げ貫くモノのことを考えると息をするのも苦しいほどに興奮してしまう。 ジーッとジッパーを下げる音がして、雄介の雄は己を締め付けていた布から解放され、それを瀬島の手が優しく包んだ。指先で固く勃たされた胸の飾りを舌が攻め、上下同時に揺さぶられてどうしても背中がのけぞってしまう。あられも無い声が出てしまう。 「あん・・・ああっ・・・す、スゴイ・・・ねぇ・・・ねぇ・・・も、もぅ・・・。」 自分達の職場であり二人を引き合わせるきっかけとなった場所での行為は少し後ろめたくて、だからといってガマンなんてもうできない。瀬島のYシャツの袖を掴むようにしていた雄介の手を取って起き上がらせ、ソファに座らせると瀬島はフロアに膝をつくようにして雄介を口に含んだ。 「くふん・・・くっ・・・うあぁっ・・・。」 ベルベットのソファでは爪がめり込んでしまって力の逃げ場が無くて、だから瀬島の頭を抱え込むようにして感じるままに揺さぶられているとそれに押されるように瀬島が更に深く求めた。舌が筋を這い、唇が粘膜を包む。繰り返される刺激に気が遠くなりそうで、小刻みに身体が震える。。 「ダメだよ・・・でちゃう。ねぇ、もぅ・・・い・・・イクっ。」 瀬島の口の中に出してしまったのは初めてだった。 いつもはその寸前で止めてしまうか、口でされることに若干の抵抗があったのだが、まるでホストクラブのお客さながらにソファに腰掛け、瀬島を傅かせてその手練に陥ては己の欲求の求めるがままに暴走するほかなかった。 「雄介の・・・美味い。」 口の端を少し拭うようにしてちらと見上げられると、もうそれだけで雄介はとろけそうになった。 「ヒドイ・・・恥ずかしいのに。」 少し目を潤ませるようにして消え入りそうな羞恥心に頬を紅く染めている雄介の表情はそれから先を貪欲に誘っているようにしか見えなかった。 「じゃあ、今度は二人で一緒にもっと恥ずかしいことしよう。」 耳朶を甘噛みするように囁かれ、うつぶせになるようにソファに転がされた雄介の双丘を瀬島の指と舌が攻め始めた。 始めは舌でゆっくり湿らせるように、そうして指で入り口を少しずつこじ開けるように。 「ひゃぁッ・・・あんあんあんあん・・・もぅ、ねぇ、お願い、ダメ、ねぇ、ダメ・・・。」 クチュクチュといやらしい音をさせて、指の動きに過剰なまでに反応して雄は再び頭をもたげてきている。 「ダメ・・・ねぇ、きて。ちょうだい、ねぇ、カオルさんの、ねぇ。」 泣きそうな声をしている雄介の身体を表がえすと左脚を肩に乗せるようにして奥までゆっくり進んだ。 「あっ・・・ああああっ・・・。」 肉が深く穿たれる度にあがるうめくような、そして喜ぶような声を強いキスで飲み込むと、反動で最奥がぐっと締め付けられる感触がした。 クラブの中は奥行きを出すように壁面がミラー貼りになっているが、瀬島の肩にのせられた雄介の細長い脚がゆらゆらと幾重にもまるで万華鏡のように映っていた。 こめかみを流れる汗を拭おうとふと顔を上げたとき、灯りの下で揺れる脚がなまめかしくて、その脚を持ち上げるようにして内腿に舌を這わせると腰から下がヒクヒクと動いた。Yシャツを掴む雄介の重さを反動にするように起き上がり、そのまま座らせると鏡は強く激しく揺さぶられる雄介の上半身を無限の虚の空間に映し出している。 「雄介、みてごらん。エロい顔している雄介がたくさんいるよ。」 首筋を強く吸いながら囁くとしがみついてきた。 「いやぁっ、恥ずかしいから…。」 「ほら、見てよ。すごい綺麗だから。ね、どの雄介が一番いやらしい顔だろうか。」 天使と淑女と悪魔と娼婦と、どの顔も雄介で、全ての雄介を独り占めしたい。 コイツのためなら、どれだけでも貪欲になれる。 「雄介・・・俺も・・・もぅ、イキそう・・・。」  汗にまみれたまま、雄介はくったりと瀬島にもたれかかっていた。 「歩いて帰れるか?」 そっと聞くとコクリとうなずいたが疲れているのか直ぐにでも泥のように眠れそうだ。 タクシーを呼んで、帰ろう。 そうして目覚めたら、ホットケーキを焼いて一緒に朝食を摂ろう。  表でブレーキの音がしたのですっかり寝崩れた雄介をおぶって表へでると、朝の光が万華鏡のように幾重にも重なって目に飛び込んできた。

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