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第一章・6

「熱ッ!」  大声までたてて騒ぎながら、再びルドーニが寝室へ入ってきた。  首を動かす力も出ないが、どうやら湯を運んできてくれたらしい。  ありがたい、とヴァフィラは素直に感じた。  この乾燥しきった空気で喉が貼りつき、呼吸をすることもままならないのだ。  湿度が上がるのは大歓迎だ。  だが、ルドーニはそんな目的で湯を運んできたのではないらしかった。  湯桶をサイドテーブルに置き、なにやら不穏な言葉を口にしたのだ。 「さて。怒るなよ? 暴れるんじゃねえぞ?」  寝具の上掛けをそっとはがし、ヴァフィラを覗き込む。  瞳は力なく閉じたままだ。  だが、その唇がかすかに動いている。 「かまうな……帰れ……」  やれやれ、腐っても鯛だ。弱ってもヴァフィラだ。  ルドーニはその言葉に少しだけ安心した。

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