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第四章・8
「経験なら、今からその大切な人と一緒に積んでいけばいい! とにかく、心から誠意を持って付き合ってやれ。それで充分だ!」
「そうかな」
「そうだ!」
ヴァフィラは、あとは逃げるようにライファの元から走り去った。
頬が、耳が、体が熱い。
神殿近くの私宅まで一気に駆け上がってしまうと、長椅子にどさりと身を横たえた。
はぁはぁと荒く吐く息は、走ったから上がったのではない。
ぶるっと体を震わせると、ヴァフィラは眼を固く閉じ心を鎮めようとつとめた。
だが、瞼の裏に浮かんでくるのはルドーニの顔。
昨日の、夕日の中での口づけ。
あの後夜を迎え、そのまま共に過ごすものだと思いきや、突然の女王からの呼び出しにルドーニはヴァフィラの元を去り、そのまま戻って来なかったのだ。
おあずけをくった体の火照りが甦る。
ルドーニが欲しい。
唐突に浮かんだ自分でも思ってもみなかった考えに、ヴァフィラは慌てて首を振った。
「馬鹿な。私はなんてことを」
はしたない、と自分を否定し、乱暴に服を脱ぎ捨てるとバスルームへと向かった。
冷たい水を浴びれば体の火照りもおさまるだろう、との考えからだったが、それが裏目に出るとはこの時のヴァフィラには思いつかなかった。
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