83 / 459

第五章・4

 時々窓を開けて部屋に風を通してくれないか、と渡された合鍵。  時々どころか、ほとんど毎日通った。  帰るはずのない主のテーブルへ花を活けて見たり、寝室のシーツを取り換えてみたり。  誰かの帰りを待つ、という事は、心を半分に分かつものだという事をヴァフィラは知った。  期待と落胆。  今日こそは、帰ってくるかも。  今日もまた、帰ってこなかった。  そして再び、落胆に終わるのか。  だが、かすかな期待を捨てきれず、ヴァフィラは冷たい湧水を汲んできてルドーニの好きなワインを冷やして待った。  待って、待って、待ちくたびれて、いつしかテーブルに突っ伏してうとうとしていたところに、ふわりと夜風が訪れ頬を撫でた。  顔を上げると、扉が大きく開かれ背の高い人影が立っていた。  月の逆光で顔が見えない。  だが、見なくても解かる。

ともだちにシェアしよう!