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第五章・5
「ルドーニ」
ああ、やっと言えた。
独りごとではなく、ちゃんと本人に向かってその名を言えた。
「ヴァフィラ?」
驚いたようなルドーニの声。
なんて間抜けな声だろう。
久々の第一声が、何の変哲もない耳に慣れた響き。
だが、今はそれすらも愛おしい。
ヴァフィラは立ち上がって、呆けたように立ちつくすルドーニの元へと進んだ。
近づくと、汗と砂ぼこりの匂いがした。
汚れきったマント。
ぼさぼさの髪。
手を取った。
爪は泥が入り込んでいて、黒かった。
それでもかまわず、ヴァフィラはルドーニの腕の中に潜り込んだ。
頬を寄せると、荒く剃られただけの髭が痛かった。
「おかえり」
「ただいま」
短い言葉を交わし、しばらく抱き合った。
冷たい鎧の向こうから、温かなルドーニのぬくもりが伝わってくる。
生きて帰ってきてくれた。
ただそれだけのことが、無性にうれしかった。
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