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第五章・9
浴室の床はきれいに磨かれ、水瓶には清水が用意してあった。
いつ帰ってもいいようにと、おそらくヴァフィラは毎日のようにここへ通い詰めてくれていたに違いない。
ヴァフィラの気遣いに深く感じ入りながら、ルドーニはありがたく身を清めた。
疲れ切った心の澱も、清水とともに流れ落ちてゆく。
さっぱりして浴室から出ると、食卓には軽食と冷たいワインが待っていた。
愛しい人が待つ場所へ帰るということは、こんなに素敵なものなのかとルドーニは胸を躍らせた。
自然と会話も弾む。
料理が腹に納まりワインを飲み干してしまう頃に、ルドーニはようやく心がほどけて行く実感を受け止めていた。
あの一言が、まだ消えずに残ってはいたが。
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