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第六章・15

 グラフコスの言う通り、ルドーニは仰向けのままひっくり返っていた。  そっと覗きこむと、そらぞらしく眼を閉じて気絶しているふりなどを。  しかし、ヴァフィラの長い髪がルドーニの鼻をくすぐり、耐えられずに眉をもじもじひそめている。 「おや、こんなところに蟹がいる」  すましてヴァフィラは、独り言にしては聞えよがしにしゃべった。 「なんておいしそうな蟹だろう。連れて帰って、今夜いただくことにしよう」  ぴくり、とまぶたが動いた。それでも意識のないふりを続けるルドーニ。 「しかし大きすぎるな。持って帰るのは大変だ。自分で歩いてくれれば助かるのだが」    ついにルドーニは吹き出した。  二人でひとしきり笑った後、ルドーニは素直に謝ってきた。 「ごめん。悪かった」 「もう、いいんだ」  素直なルドーニには、素直に返した。  寂しかったのは、私だけではないのだ。  会えないなら会えないなりに、なにか工夫をするべきだった、とヴァフィラは思っていた。  せめて、手紙を書くとか方法はいくらでもあったはずだ。  愛情を受け取るばかりで、何も返してあげることのなかった自分を、悔いていた。

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