166 / 459
第八章・7
男は、あっけないくらい早々に立ち去っていった。
またいつでも呼んでくれ、と少々意味深な言葉を残したが。
意味深と勘繰るのは、神経質かもしれない。
しかし、彼に対するヴァフィラの態度はルドーニの心に小さな棘を刺すには充分だった。
無防備な笑顔。
先ほど夢に見た、ニコルスに向けて見せた笑顔と似ている。
心に湧いたかすかないらだちを隠すため、できるだけ軽い口調でルドーニはヴァフィラに問うた。
「誰? あいつ」
あぁ、とヴァフィラは上衣の腰紐をほどきながら答えた。
「新しい神官だ」
「神官? 神官様にしちゃあ、やけにマッチョだったけど?」
「もとは一般兵の百人隊長だったんだが、耐毒修行をして私の神殿の神官に転職してきてくれたんだ。何かと助かる」
「何かと、って何の」
「神官なのに、こうしてジャガイモの収穫に付き合ってくれるとか」
それくらい俺に頼めばいいじゃん、とルドーニは反論したかったが、ヴァフィラはさっさと浴室へ入ってしまった。
ともだちにシェアしよう!