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第九章・4
行商人の居場所はすぐに解かった。露店が並び、にぎやかな声が響き人だかりができている。
普段は見ない色合い、普段は嗅がない匂い、普段は聴かない旋律。
ちょっとした市場の雰囲気だ。
大勢の人たちの頭越しに覗きながら、ディフェルとナッカは店をひやかし始めた。
珍しい模様の織物に、色とりどりの香辛料。
ガラス製品に陶器。アクセサリーや楽器など、様々な品がずらりと揃っている。
そしてその中には、書籍もあった。
あ、やばい、とナッカが考えるより早く、ディフェルはその本の露店から動かなくなってしまった。
普段は手に入りにくい、海外の文学やボタニカルアートの図集などにすっかり目を奪われている。
こうなるともう、ディフェルは少なくとも1時間は我を忘れてしまうので。
ついでにナッカの事も忘れてしまうので。
仕方がないので、ナッカはひとり手持無沙汰にぶらぶらと見物を始めた。
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