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第九章・5
見るもの、手にするもの、どれも珍しく面白い事は確かだ。
だが、どれもが揃ってそんな風なので、これが欲しい、との決め手に欠ける。
良く言えば全部欲しくなる、悪く言えばドングリの背比べ、そんな印象をナッカは受けた。
すると、そこに。
「おろ?」
何とも甘く芳しい香りが漂ってくる。
嗅ぎ慣れた安心感と、その中に潜む新鮮さがナッカの気を引いた。
香りは、集合した露店よりやや離れたところから漂ってくる。
足を運んでみると、小さな折り畳み式の売り台にあでやかな緋色の布を掛けた店がある。
他より一風変わった雰囲気と、その売り子の女性にナッカは大いに興味をそそられた。
売り台の上の陶器の小壺や、ガラスの小瓶。そして先程嗅いだ芳しい香りは、淹れ立ての紅茶から生まれていた。
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